日本人に多い腰痛
日本人の約2,800万人に腰痛があり(厚生労働省の調査による)病院ではレントゲンやMRIといった画像診断により椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの診断名がつけられ「骨と骨の間、または背骨の中の空洞が狭くなったため神経に影響を与えている」と説明されたケースを多く耳にします。

そこで椎間板ヘルニアの場合、変性してとび出した椎間板を切除する手術が行われ脊柱管狭窄症の場合、背骨の狭窄を広げる拡張手術が行われることがあります。
背骨の狭窄が原因であれば広げる手術によって痛みやシビレを改善することが期待されます。しかし実際には手術後痛みは軽減したがシビレが残ったままの方や数か月後に症状が再び現れる方も一定数いらっしゃると報告されています。

椎間板ヘルニアの症状と画像所見の関係性
あまり知られていない事ですが1995年に国際腰椎学会でスイスのニコライ・ブースらによって発表された論文で20〜80歳代の腰痛が無い人(無症候者)に対し腰椎MRIを行い、どの程度「椎間板ヘルニア」や「椎間板変性」があるかを明らかにする検証が行われました。

その結果、
- 腰痛が無い人の76%に椎間板ヘルニアがあり
- 腰痛が無い人の85%の人に椎間板変性があり
- 年齢の違いで言うと60歳未満では36%、60歳以上では76%に椎間板ヘルニアや膨隆、椎間板変性が見られた

この研究から腰痛が有っても椎間板ヘルニアがあり、腰痛が無くても椎間板ヘルニアがある。このことから椎間板ヘルニアは無症状でも非常に多いまた高齢になるほど腰痛が無い(無症候性)椎間板ヘルニア・椎間板変性が多く見られるということが分かり、「椎間板ヘルニア・椎間板変性は、必ずしも腰痛の原因ではない」という事が明らかになった。
この研究報告をした論文で腰痛研究のノーベル賞といわれ腰痛研究では最も名誉ある国際賞の一つであるボルボ賞を受賞しています。

脊柱管狭窄症の症状と画像所見の関係性
高齢者に最も多い脊柱管狭窄症ですが和歌山県立医科大学が40~93歳の男性308名、女性630名、平均年齢66.3歳の合わせて938名を無作為に画像検査(エックス線検査・MRI検査)を行われました。

その結果、
- 77.9%の人に中等度以上の脊柱管狭窄があり
- 30.4%は重度の狭窄があり
- しかし実際には重度の脊柱管狭窄があったにもかかわらず症状があるのはわずか17.5%のみ

この研究から腰の脊柱管が狭くなった人はとても多く存在しているが、実際にシビレや間欠性跛行(途中で歩けなくなり止まってしまう)の歩きにくいといった症状がある人は比較的まれだった、つまり画像上は腰の骨の空洞が狭くても、多くの人に症状がないことが明らかになった。

症状が無い健康な人でもレントゲンやMRIなどの画像上に椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が存在している、また逆にヘルニアや狭窄が見受けられなくても痛みやシビレなど強い症状を伴う人もいるため症状と画像が一致せず説明がつかない場合が少なくない事から必ずしも椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症=痛みやシビレなど現在の症状とは言えない。

むしろ年齢を重ねると誰にでも自然に起こる「体の変化」として現れることが多いということです。
腰痛や下肢痛のもう一つの原因
みなさん、関節機能障害と言う言葉をご存知でしょうか? 腰痛や下肢の痛み・シビレや間欠性跛行などの症状は椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、すべり症だけではありません。その一つが関節機能障害と呼ばれる状態です。

関節機能障害とはアメリカの整形外科医ジェームス・B・メネルによって定義されました。 レントゲンやMRIなどの画像検査では明らかな異常が見られないのに痛みや関節の動きがおかしかったり違和感を感じる、又これは組織の損傷や炎症ではなく関節の遊びなど関節内の動きの異常から腰痛や下肢のシビレといった椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と似たような症状が出る場合があります。

腰椎椎間板ヘルニアの症状は腰痛と脚への放散痛があり時に脱力感を感じたり検査をすると筋力低下や感覚障害を自覚することもあり、痛みによって背骨の側弯が起こったり跛行といったこともあります。
また脊柱管狭窄症も臀部や脚の痛みやシビレといった異常な感覚や間欠性跛行といって途中数十メートルくらいで休まないと歩けないなど腰痛の有無は問わず脚への症状が主に出現します。

これに対し関節機能障害でも関連症候により例えば腰椎5番と仙骨1番の関節に関節機能障害が起こると脚の外側や後面に痛みやシビレなどの異常な感覚、筋力低下などが出現します。ここで厄介なことは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などと症状がオーバーラップし見逃されやすい特徴があるということです。
関節機能障害は言わば雨戸のレールにしっかり戸が乗っていないため脱線し、摩擦で強く軋んで動きが悪い状態の様なものです。わかりやすく言うと関節にも錆びつきや引っかかりの様なものが起こることで関節内の運動が正常に行われなず画像上、病変が無いにもかかわらず痛みを訴える方が少なくありません。

実際、当院に来られる人の中にも特に運転を多くする仕事の方などお尻や太ももの後ろが強く突っ張りシビレもあり50m歩くのも辛く整形外科では画像検査を行い脊柱管狭窄症と診断された方がいらっしゃいます。

また、庭の草むしりなど長時間しゃがんだ姿勢で座っている方など長年の腰痛や臀部の痛みで病院ではMRIを撮ったところ手術が難しいほど強いすべり症と診断された方もいらっしゃいました。

すべての方に同じ効果があるわけではありませんが、このような方でも関節の調整と筋・筋膜性の施術やその後のセルフケアで症状が緩和し「歩きやすくなった」「趣味の旅行を楽しめるようになった」といった声をいただくことがあります。 ※施術の効果には個人差があります。

こうした経験から確かに画像上で脊柱管が狭かったり、椎間板が飛び出ていたり、背骨が極端に滑っていた事実があるとしても、もちろんすべてではありませんがその中には画像に映らない関節の機能障害が関係している人が隠れているケースが少なくないと感じました。

なぜなら、関節機能障害の存在が、まだ一般にはあまり知られていないのが現状だからです。
もちろん椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症があり、それによって症状が出ている方も実際にいらっしゃいます。ただし研究報告などから画像所見と症状が必ずしも一致しないケースが多いことが分かってきています。
