体を支えるインナーマッスル・腸腰筋
インナーマッスルとは
私たちの身体には、目には見えませんが、姿勢を支えたり、動作のバランスをとったりする「縁の下の力持ち」のような筋肉があります。それが インナーマッスル(深層筋) と呼ばれる筋肉です。
テレビや雑誌でよく話題になる、「インナーマッスルとはどれか?」を厳密に説明できる専門家は実は多くありません。その理由は、どの筋肉がインナーでどの筋肉がアウターかが筋肉単位ではなく、筋肉の中に存在する性質(支える働き・動かす働き)によって分かれているからです。
筋肉は、
・体を大きく動かす「アウターマッスル」
・体を安定させる「インナーマッスル」
という役割の違う繊維の集合体でできています。
つまり一つの筋肉の中に、両方が同時に存在しているのです。
アウターマッスルは動きの中心で、大きな力や瞬発力を発揮します。一方、インナーマッスルは大きく動くことは少なく、姿勢を保つための微妙な調整を行います。建物で言うなら、アウターマッスルは柱や壁、インナーマッスルは目に見えない基礎部分のような存在です。
この基礎が弱くなると、どれだけ表面を鍛えても身体はグラグラしてしまい、腰・股関節・膝・首などに負担をかけてしまいます。
インナーマッスルのはたらきが悪いとどうなる?
インナーマッスルがうまく働いていない人には、次のような特徴があります。
・気づくと背中が丸くなる
・座っているだけで腰・背中が疲れる
・肩こりや首こりが慢性化する
・股関節や膝が痛くなりやすい
・長時間同じ姿勢が保てない
・歩き方が不安定になる
特に注意したいのが 座っている姿勢の負担の大きさ です。
「なぜ、座っているのに腰が痛くなるの?」と思う方も多いですが、実は座っている姿勢こそ腰に強い負荷がかかります。骨盤が倒れて背中が丸まると、背骨を支える筋肉の負担が増え、腰痛・頭痛・手のしびれなど、さまざまな症状が出てきます。
骨盤が後ろに倒れる(後傾する)と、その上にある背骨は土台ごと傾くため、自然なS字カーブが失われます。S字カーブが崩れると背骨に均等に分散されていた力が失われ、背中が丸まる(猫背)、首が前に出る(ストレートネック)という連鎖が起きます。
背中が丸くなると、脊柱起立筋(背中の筋肉)、多裂筋(インナーマッスル)、頸部後方の筋肉などが 伸ばされっぱなしの状態 になります。
筋肉は縮む → 伸びる → 元に戻るというサイクルが自然ですが、背中が丸い姿勢では伸びたまま固定されてしまう。この状態は筋肉にとって一番疲れやすく、血流も悪くなります。
骨盤が倒れると、体を支える深層のインナーマッスル(多裂筋・腸腰筋・腹横筋)が働かなくなり、代わりにアウターマッスルが無理して姿勢を維持する ようになります。
その結果、腰がだるい・背中が張る・肩がこる・すぐ疲れる・長時間座れないという症状が出ます。
背中が丸いと腰椎が前側へつぶれる姿勢なので、椎間板の後方への圧が増えるため、ヘルニアの原因にもなり、腰痛悪化の引き金にもなります。
インナーマッスルは「ゆっくり伸ばす刺激」で強くなる
多くの人は「筋肉を鍛える=激しく動かす」と思いがちですが、インナーマッスルは真逆です。
インナーマッスルが最も活性化するのは
・ゆっくり伸ばす
・深い呼吸をしながら動く
・姿勢を整えた小さな動作
など静かな動きで、近年の研究では「筋肉は伸ばされる刺激によって強くなる」という性質が明確になっており、ストレッチがインナーマッスルトレーニングであると裏付けられています。

【参考文献】Muscle stretching with deep and slow breathing patterns: a pilot study for therapeutic development
インナーマッスルの中心「腸腰筋」とは?
インナーマッスルの中でも、特に重要なのが 腸腰筋(ちょうようきん) です。
腸腰筋は
・背骨の前側
・骨盤の内側
・太ももの付け根
をつなぐ長い筋肉で、「姿勢の柱」「歩くためのエンジン」と言われるほど大切です。
腸腰筋が働くことで
・骨盤が立つ
・背すじが自然に伸びる
・足が軽く上がる
・歩幅が広くなる
・立ち上がりがスムーズ
など、ほぼすべての動作が安定します。
逆に腸腰筋が弱ったり硬くなると、以下のような悪影響が起こります。
・腰が丸くなる
・股関節がつまる
・歩くと痛い
・膝に負担がかかる
・反り腰や猫背が悪化
腸腰筋が硬くなると“ギックリ腰”が起こる
ギックリ腰の多くは「腸腰筋の急なけいれん(つり)」が原因です。ふくらはぎがつると足が動かなくなるように、腸腰筋がつると腰が伸びなくなり、
・前かがみのまま動けない
・足を出すと激痛が走る
・立ち上がれない
という状態になります。
腸腰筋は深い場所にあるため、普通のストレッチではなかなか伸びず、縮んだまま固まる → ある瞬間にパチンとつるという流れで発症します。
くしゃみ、洗濯物を取る、靴を履く — こうした小さな動作が引き金になるのは、腸腰筋がすでに「限界ギリギリまで縮んでいたから」です。
腸腰筋からの放散痛
痛い場所が悪いとは限らず、これを 放散痛 と言います。
腸腰筋が硬くなると、
・膝
・股関節
・太もも
・すね
・足首
などに痛みが飛びます。
膝に湿布を貼っても、注射をしても、電気を当てても治らない膝痛の多くは、実は腸腰筋の緊張 → 股関節の動きが悪い → 膝が代わりに頑張って痛みが出るという流れです。
股関節痛も腸腰筋の影響が大きい
股関節は体重を支える重要な関節です。
しかしその動きを決めているのは、実は腸腰筋を含むインナーマッスルです。
腸腰筋が硬くなると、
・股関節前側に痛み
・歩くと付け根が詰まる
・立ち上がりでズキッとする
・階段がつらい
といった症状が起こります。
「軟骨が減っているから痛い」と思い込んでいる方が多いですが、軟骨は急に減りません。むしろ、腸腰筋が硬い → 股関節の動きが悪い → 摩擦が増える → 痛みというケースが非常に多いのです。
自分でできる腸腰筋の簡単チェック
骨盤の左右前側の出っ張りの骨部から指3本内側をぐっと押してみてください。
・強い痛み
・固いしこり
・内側に響く痛み
があれば、腸腰筋が硬くなっているサインです。
また、以下もチェックになります。
・長く座った後の立ち上がりで痛い
・歩き始めが重い
・股関節の前側が張る
どれか一つでも当てはまれば、腸腰筋が弱っている可能性があります。
正しい姿勢=骨盤を立てること

ソファのように深く沈む椅子では、骨盤が倒れて背中が丸くなり、腸腰筋が縮んだまま固まります。この姿勢が続くと腰痛・膝痛・股関節痛の原因になります。
簡単な改善策としてバスタオルなどをくるっと丸めて、お尻の後ろに敷くだけで骨盤が自然に立ちます。
・腰が軽くなる
・背中が伸びる
・股関節の圧迫が減る
といった効果があります。
立ち上がり時の膝痛が軽くなる場合は、原因が腰や腸腰筋にあったということです。

腸腰筋が整うと、体は良い方向へ変わり始めます
腸腰筋は、体の深いところで背骨と股関節をつなぎ、姿勢の安定とスムーズな動きをつくる重要な筋肉です。この腸腰筋が硬くなったり働きにくくなると、骨盤の角度が崩れ、腰・股関節・膝へと負担が広がり、長引く痛みや動きにくさの原因になります。
さとう流施術所では、この腸腰筋を最も重視し、上半身と下半身の連動を整える調整、正しい動きを引き出すエクササイズ、柔軟性を取り戻すストレッチなどを組み合わせ、状態に合わせた最適なアプローチを行っています。
腸腰筋はインナーマッスルの中心として、他の深層筋とも強く関係しています。そのため腸腰筋が整うことで、腹横筋や多裂筋などのインナーマッスルも働きやすくなり、自然と姿勢が安定し、体全体が軽く動けるようになります。
痛みのある場所だけを調整するのではなく、腸腰筋を中心に深部のバランスを整えていくことで、腰痛や股関節の痛み、膝痛、繰り返すギックリ腰など、さまざまな不調の根本改善を目指すことができます。
長年続く痛みや原因のはっきりしない不調でお悩みの方こそ、腸腰筋を整える価値があります。腸腰筋が変わると、姿勢が変わり、体が確実に変わり始めます。


