膝の痛みは、痛む場所によって原因がまったく異なります。同じ「膝が痛い」でも、どの組織が負担を受けているかを見きわめることが、痛みを理解する第一歩です。
レントゲンで変形が大きく見えても痛みがない方もいれば、変形がわずかでも強く痛む方もいます。
痛みは変形の大きさとは別の話であり、どの組織に力が集まっているかが問題の本質です。そして膝の痛みは、膝だけで起きているわけではありません。
股関節や足首の動きが悪くなると、その分のしわ寄せが膝に集まり、やがて膝がしっかり伸びなくなることで痛みがさらに広がっていきます。
部位ごとに、何が起きているのかを整理していきます。
部位別にみる膝関節痛の種類と特徴まとめ
膝の内側が痛むタイプ
膝の内側には、骨と骨の間でクッションの役割を果たす半月板(はんげつばん)、靭帯(じんたい:骨をつなぐ丈夫な帯状の組織)、そして腱(けん:筋肉が骨に付く部分)が集まっています。
これらのいずれかに繰り返しの力がかかり続けると、痛みとして現れます。 この部位の代表的な状態として「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう:軟骨がすり減り、膝の構造が変わってきた状態)」「内側半月板損傷(うちがわはんげつばんそんしょう:内側のクッションが傷んだ状態)」「鵞足炎(がそくえん:膝の内側下方にある腱の付着部が痛む状態)」「内側側副靭帯損傷(うちがわそくふくじんたいそんしょう:膝の内側を支える靭帯が傷んだ状態)」などがあります。
これらに共通して言えることは、体重が膝の内側に集中しすぎていることです。
内反変形(ないはんへんけい:O脚のように内側に弯曲した足の状態)が進むと、地面から受ける力が内側に偏り、内側の軟骨や半月板、靭帯が絶えず圧力にさらされます。
また、すねの骨が太ももの骨に対して外側へねじれながら動く癖がついていると、内側の腱の引っ張りが強まり、鵞足炎や半月板への負担につながります。
内側の痛みは「膝の内側だけ」の問題ではなく、股関節の筋力低下や体幹の不安定さがつながっていることがほとんどです。
変形性膝関節症について誤解されやすいことがあります。レントゲンで変形が大きく見えても痛みがない方もいれば、変形がわずかでも強い痛みを感じる方もいます。
軟骨そのものには痛みを感じる神経がないため、「軟骨が減って骨がぶつかっているから痛い」というわけではなく、半月板や関節周囲の組織、骨の内部の変化が痛みの原因になっていることが多いとわかっています。
【出典】Mechanisms of Osteoarthritis (OA) Pain
特徴
内側の骨の際(きわ)を押すとズキッとした圧痛があり、歩き始めの最初の数歩で鈍くうずくような痛みが出やすいという特徴があります。
原因
O脚の骨の並び方によって内側に荷重が偏ること、および股関節まわりの筋力低下によってすねが外側へねじれながら動く習慣がついていることが主な原因として挙げられます。
ならないために気をつけること
殿筋群(でんきんぐん:股関節まわりのお尻の筋肉)を日頃から使えるようにしておき、歩くときに膝が内側へ入り込まないような動き方の習慣を身につけておくことが大切です。
一般的な改善方法
股関節と体幹への運動療法と歩き方の見直しが中心となり、足の外側を少し高くするインソールを使って足部からの力の流れを調整する方法も広く行われています。
どんな感じの痛みか
歩き始めに内側がズキッと痛み、しばらく動くと少し楽になるが、長く歩いたり階段を下りたりすると再び重だるい痛みが戻ってくる、という繰り返しのパターンを訴える方が多いです。
膝の外側が痛むタイプ
膝の外側には、腸脛靭帯(ちょうけいじんたい:太ももの外側を骨盤からまっすぐ走り下りてくる太くて丈夫な繊維性の帯)が、膝の外側の骨のでっぱりと接しています。
また外側にも半月板があり、外側の靭帯もこの部位の安定に関わっています。 代表的な状態として「腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん:腸脛靭帯が膝の骨のでっぱりに繰り返しこすれて痛む状態)」「外側半月板損傷(そとがわはんげつばんそんしょう:外側のクッションが傷んだ状態)」などがあります。
腸脛靭帯は骨盤まわりの複数の筋肉がすべてつながっている組織です。
そのため、骨盤の安定性が落ちると靭帯全体の緊張が高まります。
歩行や走行のたびに膝が少し曲がる角度で靭帯が骨のでっぱりにこすれ、これが繰り返されることで摩擦による痛みが生じます。
外側の組織が硬くなればなるほど、体重が外側にもたれやすくなるという関係があります。
「外側が硬いから外側に力がかかる」という悪循環が成立し、これが痛みを慢性化させていきます。
外側の痛みを考えるうえでも、股関節の動き方と骨盤の安定性を見ることが欠かせません。
特徴
一定の距離を歩いたり坂道を下ったりすると膝の外側のでっぱりあたりがジリジリと焼けるように痛み始め、止まると引くが、また動き出すと戻ってくるという繰り返しのパターンが多く見られます。
原因
内反力(ないはんりょく:膝関節に内側へ倒れ込む力)が繰り返しかかることと、骨盤が歩行中に外側へ落ちることで腸脛靭帯が上から引っ張られ続けることが原因として考えられています。
【出典】Dynamic Varus and the Development of Iliotibial Band Syndrome
ならないために気をつけること
股関節の伸びる動きと内側へまわる動きの柔軟性を保ち、歩くときや走るときに骨盤が外へ落ちないよう中殿筋(ちゅうでんきん:お尻の横の筋肉)の機能を維持しておくことが予防として重要です。
一般的な改善方法
腸脛靭帯そのものの柔軟性を取り戻しながら、骨盤のコントロールを引き出す運動療法と、荷重時の膝の向きを正す動作訓練が一般的に行われています。
どんな感じの痛みか
膝の外側の骨のでっぱりのあたりが、歩くたびにジリジリと焼けるように痛む感覚で、階段の下りで特に強く感じることが多いです。
お皿(膝蓋骨)のまわりが痛むタイプ
膝蓋骨(しつがいこつ:お皿)は、膝を曲げ伸ばしするたびに太ももの骨の上をレールのように滑ります。
このお皿のまわりには、太もも前面の筋肉がつながる太い腱と、お皿の下にクッションとして存在する脂肪の塊があります。
代表的な状態として「膝蓋大腿関節症(しつがいだいたいかんせつしょう:お皿と太ももの骨の間に過剰な圧力がかかる状態)」「膝蓋腱炎(しつがいけんえん:お皿の下の腱が傷む状態)」「膝蓋下脂肪体炎(しつがいかしぼうたいえん:お皿の下の脂肪組織が傷む状態)」「オスグッド・シュラッター病(成長期の子どもに多く、すねの骨の上端が繰り返しの引っ張りで傷む状態)」などがあります。
膝蓋下脂肪体は、お皿まわりの痛みの中でもっとも見落とされやすい組織の一つです。
この組織には痛みを感じる神経が豊富に存在するため、変形の程度に関係なく激しい痛みの原因になることがあります。
膝を伸ばすときに前方へせり出し、曲げるときは奥へ引き込まれながらクッションとして働きます。
この組織が硬くなると、動作のたびに挟み込まれて痛みが出ます。 外側の筋肉や靭帯が硬く緊張していると、お皿が外側へ引っ張られてレールの溝の中で偏った位置を走り続けることになります。
その結果、お皿の裏面と太ももの骨との接触面積が狭まり、一点に圧力が集中して痛みにつながります。
太ももの内側の筋肉が弱くなっていると、外側への偏りがさらに強まります。
特徴
長時間座ったあとに立ち上がるとお皿のまわりがズキッと痛み、しばらく動くと少し楽になるという特徴がある一方、階段の昇降やしゃがみ込みでお皿の裏に圧迫感が出やすいです。
原因
外側の筋肉や靭帯の硬さによってお皿が外側へ引っ張られ、太ももの骨との接触面積が偏ることで圧力が一点に集中することが主な原因として考えられています。
ならないために気をつけること
太ももの内側の筋肉の力を日頃から維持し、外側の筋肉との張力のバランスが崩れないよう、お皿のまわりを定期的にほぐすことが大切です。
一般的な改善方法
お皿の動きをレールの正しい位置に戻すテーピングや、太ももの内側の筋肉を優先的に働かせる運動療法、外側の組織の柔軟性を取り戻す手技療法が一般的に行われています。
どんな感じの痛みか
お皿の裏がジリジリと圧迫されるような鈍い痛みで、椅子から立ち上がるときや坂道を下るときに特に強く感じることが多く、時にはお皿の下のでっぱりをさわるとズキッとした押し痛みがあります。
膝の裏・後面が痛むタイプ
膝窩部(しつかぶ:膝の裏)には、ハムストリングス(太ももの裏から走ってくる複数の筋肉)、腓腹筋(ひふくきん:ふくらはぎの筋肉)、そして膝窩筋(しつかきん:膝の後ろで横向きに走る小さな筋肉)が複雑に重なり合っています。
また膝裏には関節の袋があり、関節内に炎症が起きると液体がここに押し出されてくることもあります。
代表的な状態として「膝窩筋炎(しつかきんえん:膝の裏にある筋肉が引き伸ばされ続けて痛む状態)」「ベーカー嚢腫(べーかーのうしゅ:膝の裏に液体が溜まって袋状に膨らんだ状態)」「ハムストリングス腱の付着部への繰り返しストレスによる痛み」などがあります。
膝窩筋は、すねの骨が外側へねじれるのを止める役割を担っています。
長時間の歩行などで、すねが外側へ過剰にねじれ続ける状態が続くと、この筋肉が絶えず引き伸ばされて血流が悪くなり、痛みが発生します。
また、深くしゃがむときに膝が正しい方向へ回転せず、筋肉が骨に挟み込まれるような状態になると、しゃがんだときの膝裏の痛みとして現れます。
膝窩筋の問題は病院で病名がつくことが少ないのですが、膝の裏を押すと痛みがある方は非常に多く、見落とされやすい部位です。
この筋肉の治療や評価は、膝全体のねじれを考えるうえで重要な手がかりになります。
ベーカー嚢腫については、袋そのものを問題にするのではなく、なぜ関節内に液体が増えているのかという根本の原因を探ることが大切です。
半月板の損傷や関節内の炎症が背景にあることが多く、膝裏の筋肉同士がなめらかに動けるようにすることも重要です。
特徴
膝の裏を押すと深いところにズキッとした圧痛があり、深くしゃがんだときや長時間歩いたあとに膝の裏全体が重だるく張る感覚が残るという特徴があります。
原因
すねの骨が外側へ過剰にねじれた状態で長時間動き続けることで、膝窩の筋肉が引き伸ばされながら血流が悪くなることが痛みの原因として考えられています。
【出典】Anatomy, function, and rehabilitation of the popliteus musculotendinous complex
ならないために気をつけること
立ったり歩いたりするときに膝の向きと足先の向きを揃えておき、すねが外側へ過度にねじれないような動き方の習慣を身につけることが大切です。
一般的な改善方法
すねの過剰なねじれを正す動作訓練と、股関節の外側へまわす動きの範囲を引き出す手技療法が一般的に行われており、ベーカー嚢腫がある場合は背景の膝関節への負担を減らすことが先決となります。
どんな感じの痛みか
しゃがんだときに膝の裏側がジンジンとつかまれるような深い痛みがあり、長時間歩いたあとに膝の裏全体が重たく張った感覚が残ることが多いです。
膝全体が動かしにくく、伸ばしにくいタイプ
特定の部位というより、膝全体が「うまく伸びない」「曲げきれない」という状態が続いている方もいます。
この場合の多くは、膝のまわりの複数の筋肉や組織が互いにうまくすべらなくなっていることが原因です。
代表的な状態として「膝関節拘縮(しつかんせつこうしゅく:膝が曲がったままか伸びたまま固まってしまう状態)」や「変形性膝関節症に伴う伸展制限(膝がしっかり伸びなくなった状態)」などがあります。
膝がしっかり伸びないことは、一見「たいした問題ではない」と思われがちですが、実は多くの膝の痛みの背景にこの「膝が伸びない」という状態が隠れています。
膝が少し曲がったままの状態では、膝を支える靭帯がゆるんで効かなくなります。
すると歩くたびに膝が小さくぐらつき、そのぐらつきを補おうとしてまわりの筋肉が過剰に緊張します。
筋肉が緊張すれば血流が悪くなり、疲れが取れにくくなり、さらに膝への負担が増えていきます。
膝が伸びにくくなる原因のひとつに、半膜様筋(はんまくようきん:太もも後ろの筋肉)と腓腹筋(ひふくきん:ふくらはぎの筋肉)が互いに癒着(ゆちゃく:組織がくっついて動かなくなること)して動けなくなっていることがあります。
これらは本来、膝を伸ばすときに互いに押し合いながらすべるように動きます。
この動きが失われると、いくらストレッチしても膝は伸びません。
特徴
膝を完全に伸ばしきれず、立ったときに膝が少し曲がったままになっていることが多く、長く歩くと膝全体が疲れやすいという特徴があります。
原因
膝のまわりの複数の組織が互いにうまくすべらなくなることで、膝を伸ばす動作全体が制限されることが原因として挙げられ、この状態が続くとすねが外側へねじれやすくなり、膝全体の安定性がさらに低下します。
ならないために気をつけること
日頃から膝をしっかり伸ばしきる習慣を持ち、太もも前面の筋肉をきちんと働かせながら立ったり歩いたりすることを意識することが、膝が伸びにくい状態を防ぐための基本となります。
一般的な改善方法
膝まわりの筋肉同士がなめらかにすべる状態を取り戻す手技療法と、太もも前面・後面の筋力バランスを整える段階的な運動療法が組み合わせて行われることが一般的です。
どんな感じの痛みか
膝を伸ばしきろうとすると膝の裏に突っ張るような感覚や軽い痛みがあり、長時間立ち続けたあとに膝全体がじんわりと重だるくうずく感覚が続くことが多いです。
膝の痛みとこれ以上戦わないために
どの部位が痛んでいても、その場所だけに原因があるわけではありません。
痛みの場所は「どこに負担が集まっているか」を示すサインであり、その背景には股関節や足首の動きの悪さが関係していることがほとんどです。
膝は安定させる役割を持つ関節であり、上下の関節が動かなくなると、そのしわ寄せをすべて引き受けることになります。
さらに、膝が伸びきらないまま歩き続けるとすねが外側へねじれ、それがさまざまな部位の痛みの引き金になります。
力の偏りは歩くたびに積み重なります。股関節をしっかり使えているか、膝が内側へ入り込んでいないか、膝が伸びた状態で立てているか。
こうした日常の動きの質が変わることで、同じ場所に繰り返し負担がかかりにくい状態へとつながっていきます。


