股関節前面の痛みについて

股関節前面の痛みとは

股関節前面の痛みとは、足の付け根の前あたりがズキッと痛んだり、動かすと詰まる感じがしたりする状態をいいます。

場所としては、そけい部(足の付け根のしわのあたり)の奥が多く、立ち上がりや階段の上りはじめ、車の乗り降りで強く出やすいのが特徴です。

日本では、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう:股関節の形や性質が少しずつ変わること)の中でも、受け皿が浅い体のつくりが土台にある方が少なくありません。

受け皿が浅いと、太ももの骨の丸い部分が安定しにくくなり、関節の前側に負担が集まりやすくなります。この段階では、レントゲンで大きな異常がはっきり出ないこともあります。

さらに、歩くときに股関節が十分に後ろへ伸びない、骨盤が前に流れる、お尻の筋肉がうまく使えない、といった体の使い方が重なると、足の付け根の前側で踏ん張る力が強くなります。

その結果、前側の組織(そしき:体をつくる部分)が引っぱられたり押されたりし続け、痛みや詰まり感が出やすくなります。

つまり股関節前面の痛みは、前が弱いから起こるのではなく、前で支え続けてきた体の使い方の結果として現れることが多い痛みなのです。

【出典】Life Course Epidemiology of Hip Osteoarthritis in Japan

こんな症状でお困りではありませんか

✅椅子から立ち上がるとき、足の付け根の前がズキッと痛み、一瞬体が止まってしまう。

✅靴下をはこうとして足を持ち上げると、股関節の前が詰まる感じがする。

✅階段を上るときだけ、足の付け根の前が引っかかるように痛む。

✅長く歩いたあとよりも、歩き始めの一歩目がいちばんつらい。

✅車から降りるとき、片脚に体重が乗った瞬間に前側が痛む。

✅あぐらや深くしゃがむ姿勢で、股関節の前が圧迫されるように感じる。

原因

  • 日本では、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう:股関節の形や性質が少しずつ変わること)の中でも、受け皿が浅い体のつくりが土台にある方が多いといわれています。受け皿が浅いと、太ももの骨の丸い部分が関節の中心におさまりにくく、前側に負担が集まりやすくなります。
  • 歩くときに股関節が十分に後ろへ伸びないと、足を前に出すたびに前側の組織が引っぱられます。股関節の伸びが不足すると、歩行の後半で体重の受け渡しがうまくいかず、前側の負担が増えます。
  • お尻の筋肉がうまく働かないと、太ももの骨の丸い部分を関節の中心に保つ力が弱くなります。その結果、骨の位置がわずかに前へずれやすくなり、前側が押しつぶされるような力がかかります。
  • 骨盤が常に前に傾いた姿勢が続くと、股関節の前側はいつも縮んだ状態になります。この姿勢が習慣になると、前側の柔らかさが失われ、動くたびに詰まり感が出やすくなります。
  • 股関節の後ろ側が硬くなると、本来必要な後ろへの動きが出にくくなります。その結果、動きの逃げ場がなくなり、前側に圧力が集中します。痛い場所は前でも、原因が後ろにあることも少なくありません。
  • 加齢により筋肉や関節の質が変わることも影響します。変性(へんせい:性質が変わること)が少しずつ進むと、衝撃をやわらげる力が落ち、同じ動作でも負担を感じやすくなります。

【出典】Anterior Hip Joint Force Increases with Hip Extension, Decreased Gluteal Force, or Decreased Iliopsoas Force

特徴

  • 痛みの場所が、はっきり足の付け根の前やその奥に限られていることが多く、腰やお尻よりも前側が主に痛む。
  • 股関節を深く曲げたときや、内側に少しひねったときに、前が詰まるような感覚が出やすい。
  • 鼠径部を手でつかむように押さえたくなる仕草が自然に出ることがある。これは関節の中に負担が集まっているサインの一つと考えられています。
  • 長く歩いたあとの疲れよりも、歩き始めや立ち上がりなど、動き出しで痛みが出やすい。
  • 痛みはあるが、関節の大きな変形がレントゲンでははっきり出ていないこともある。画像と痛みの強さが一致しないことがある。
  • 太ももの前を強く伸ばすと逆に痛みが増えることがあり、無理なストレッチで悪化するケースがある。

【出典】An Updated Review of Femoroacetabular Impingement Syndrome

一般的な改善策

  • 病院ではまずレントゲンやMRIで関節の状態を確認し、炎症が強い場合は消炎鎮痛薬(えんしょうを抑える薬)や湿布で痛みをやわらげます。痛みが強いときには、関節の中や周囲に注射を行うこともあります。
  • リハビリでは、股関節まわりの筋力を高める運動が行われます。特にお尻の筋肉や太ももの筋肉を強くすることで、関節にかかる力を分散させることを目指します。
  • 股関節の動きを保つために、ストレッチ指導が行われることもあります。ただし、前側を無理に伸ばしすぎると痛みが強まる場合もあるため、負担のかからない範囲で行うことが基本になります。
  • 杖の使用や体重管理もすすめられることがあります。体重が増えると股関節への圧力が増えるため、負担軽減の一つとして考えられます。
  • 痛みが長く続き、日常生活に大きな支障がある場合には、手術(人工股関節置換術 じんこうこかんせつちかんじゅつ:関節を人工のものに置きかえる手術)が検討されることもあります。
  • 家庭では、痛みが出る深いしゃがみ込みや無理な開脚動作を避けること、長時間同じ姿勢を続けないことなどが一般的に勧められています。

さとう流施術所の、なぜこのようなアプローチが効くのか

股関節前面の痛みは、前が悪いから起こるというより、関節の中心が安定しにくいまま動き続けた結果、前側で支え続けてきたことが背景にあります。

ですから、つらい前側だけを強く伸ばしたり揉んだりしても、体の使い方が変わらなければ、同じ場所に負担は戻ってしまいます。

まず、太ももの骨の丸い部分が関節の真ん中におさまりやすい状態をつくることが大切です。関節のわずかなかみ合わせの乱れがある場合には、ジョイントディスファンクション・テクニックによって、骨の滑りを微細に整えます。

股関節はほんの少しの位置のずれでも前側に圧が集中しやすいため、関節包(かんせつほう:関節を包む袋)や靱帯(じんたい)に余計な引っぱりがかからない状態を作ることで、動かしたときの詰まり感がやわらぎやすくなります。

さらに、前で踏ん張る癖が続いている方では、お尻や深い筋肉がうまく参加できていないことが多くあります。

PNF(神経と筋肉の協調を整える方法)を用いて、眠っているようになっているお尻の筋肉や股関節の深部の筋肉に働きかけます。

前だけで支える状態から、前後でバランスよく支えられる状態へ切り替えることが目的です。

長く痛みが続いている場合は、前側の組織(そしき:体をつくる部分)が過敏になっていることもあります。

そのようなときには、マイクロカレント(ごく弱い電気刺激)を補助的に用い、傷んだ部分が落ち着きやすい環境を整えます。強い刺激ではなく、体が回復しやすい流れを作ることを重視します。

さとう流施術所では、痛い場所を追いかけるのではなく、なぜ前で支え続ける体になったのかを整理します。

関節の位置、筋肉の働き、歩き方や立ち方までをつなげて考え、股関節が本来の位置で動ける状態を目指します。

前側に集まり続けていた負担を分散できるようになることで、股関節前面の痛みは少しずつ変わっていきます。

セルフケア・再発予防

  • 足を前後に大きく開いて立ちます。前の膝を軽く曲げ、後ろ脚は伸ばします。背中を丸めず、体をまっすぐ前へ移動させます。後ろ脚の足の付け根の前がじんわり伸びれば正解です。歩くときに出にくい股関節の後ろへの動きを取り戻し、前側への集中を減らします。
  • うつ伏せに寝て、片脚をまっすぐのままゆっくり持ち上げます。腰を反らせず、お尻の筋肉を使う意識で行います。前側で踏ん張る癖を減らし、お尻で支える感覚を作ります。
  • 横向きに寝て、上の脚をやや後ろへ引いた位置で持ち上げます。つま先は少し内側へ向けます。股関節の後ろ外側を使うことで、関節の安定を高めます。
  • 深くしゃがみ込む動作を減らす。床から物を取るときに、深くしゃがみ込むと股関節の前が強く押されます。片膝をつく、椅子を使うなど工夫することで前側の圧迫を防ぎます。
  • 車の乗り降りの動きの修正。片脚だけ先に出して体をひねると前側に負担が集中します。両脚をそろえて外へ向けてから立ち上がるようにします。
  • 歩幅を少し広げる意識。小股歩きになると股関節が十分に後ろへ伸びません。少しだけ歩幅を広げ、後ろ脚で地面を押す意識を持つと、前側の負担が減ります。

Q&A

レントゲンで異常が少ないと言われました。それでも股関節前面が痛むのはなぜですか?

股関節の痛みは、骨だけで決まるわけではありません。関節の前側の袋やまわりの組織(そしき:体をつくる部分)が過敏になっていると、画像に大きな変化がなくても痛みは出ます。動き方のかたよりが原因になっていることも多くあります。

ストレッチをたくさんすれば良くなりますか?

前側を強く伸ばしすぎると、かえって痛みが強くなることがあります。股関節前面の痛みでは、後ろ側を使えるようにすることも同じくらい大切です。

手術をしないと治らないのでしょうか?

人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ:関節を人工のものに置きかえる手術)が必要になる場合もありますが、多くはその前の段階で体の使い方を整えることで軽くなることがあります。

痛い側をかばって歩いていますが大丈夫ですか?

かばい続けると、反対側や腰に負担が移ることがあります。無理をしない範囲で、できるだけ左右差を減らす歩き方を意識することが大切です。

体重を減らせば痛みはなくなりますか?

体重管理は大切ですが、それだけで前面の詰まりが解消するとは限りません。関節の位置や筋肉の使い方も同時に整えることが重要です。

痛みが波のように強くなったり弱くなったりするのはなぜですか?

その日の歩き方や姿勢、使いすぎによって前側への負担が変わるためです。関節の安定が整ってくると、波は小さくなっていきます。

【出典】Course of pain and fluctuations in pain related to suspected early hip osteoarthritis: the CHECK study

その詰まり感、本当に年齢だけの問題ですか

股関節前面の痛みは、年齢や変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう:股関節の形や性質が変わること)という言葉でまとめられがちです。

しかし実際には、関節の中心がわずかに前へ偏り、前側で支え続けてきた体の使い方が背景にあることが少なくありません。

さとう流施術所では、足の付け根の前を強く押したり、無理に伸ばしたりすることを目的にしていません。まず整えるのは、股関節の位置関係です。

骨の丸い部分が関節の真ん中で自然に動ける状態を作り、前側に集中していた圧力を減らします。そのうえで、お尻や深い筋肉が参加できる体へ切り替えていきます。

特徴的なのは、歩き方まで細かく確認することです。股関節が後ろへ伸びない歩き方をしていないか。立ち上がりで前だけに体重をかけていないか。

車の乗り降りでひねりながら立っていないか。痛みを出している動作をそのままにせず、生活の中で修正できる形に落とし込みます。

食事も、体重の話だけでは終わりません。関節を支える材料になるたんぱく質、修復に関わるビタミンC、亜鉛をどの食品から取るかまで具体的にお伝えします。

例えば、肉や魚だけでなく、赤身肉、卵、大豆、果物、海産物などをどう組み合わせるかが大切になります。

股関節前面の痛みは、前が壊れているのではなく、前に負担が集まり続けた結果です。その負担の流れを変えられれば、動きは必ず変わります。

足の付け根をかばう毎日から、後ろでも支えられる股関節へ。詰まり感のない一歩を、ここから一緒に整えていきましょう。

【出典】Hip Pain and Movement Dysfunction Associated With Nonarthritic Hip Joint Pain: A Revision