仰向けで寝転んだとき、ふと自分のつま先に目をやると、左右で開き具合が違っていた。あるいはご家族から「片方のつま先がずいぶん外を向いているね」と言われたことがある。そんな経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか。

「これは骨盤がゆがんでいるからだろうか」「放っておいて大丈夫なのだろうか」と、心配になってしまう気持ちはよく分かります。
テレビや雑誌でも「骨盤のゆがみが体の不調の原因」といった話をよく見かけますから、自分の体にも何か悪いことが起きているのではないかと、気になってしまうのも無理のないことです。

けれども、つま先の開きに左右差があるからといって、必ずしも骨盤に問題があるとは限りません。むしろ、人間の体には元々わずかな左右差があるもの。それを「異常」と決めつけてしまうことのほうが、かえって不安を大きくしてしまうことがあります。
なぜつま先の左右差が出るのか
結論からお話しすると、寝たときのつま先の開きの左右差は、骨盤そのもののゆがみが原因というよりも、左右の脚の付け根の関節のクセや、生まれ持った骨の形の違いから生じていることがほとんどです。

仰向けで寝ている状態は、力を抜いて重力に身をまかせている状態ですから、脚の付け根が外向きに開きやすい方はそのまま外を向きますし、内向きにねじれやすい方は内を向きます。つまり、つま先の向きはその瞬間の体のクセを映し出しているだけで、骨盤の構造そのものがどうこうという話とは少し違うのです。この前提を知っておくだけでも、鏡や寝姿を見て一喜一憂することが減るのではないかと思います。
そもそも骨盤はどれくらい動くのか
「骨盤がゆがむ」という言葉は日常的によく耳にしますが、実は骨盤を構成している関節は、ほとんど動かない構造になっています。骨盤の中で動く可能性があるのは、お尻の中央にある三角形の骨と、その左右にある大きな骨をつないでいる関節と、下腹部の前で左右の骨が合わさる部分の2箇所だけです。

1989年のSturessonらによる研究では、お尻の中央のつなぎ目が動く範囲はわずか0.5ミリから1.6ミリ、角度にして2度未満にとどまることが報告されています。下腹部の前にあるつなぎ目のほうも2ミリに満たない動きしかありません。1ミリといえば、爪の先よりもずっと小さな単位ですよね。つまり、骨盤を構成する関節は、目で見て分かるほど大きくずれることはないのです。世間で言われている「骨盤のゆがみ」は、骨そのものがずれているのではなく、骨盤というブロック全体が前後や左右に少し回転している状態を指していることがほとんどです。
寝たときに見えるのはその人の素の姿
人間の体には、関節を支えるしくみが2つあります。1つは筋肉を働かせて支える方法、もう1つは骨や、骨と骨をつなぐ丈夫なひも状の組織、そして関節そのものの形に体重を預けて支える方法です。寝ているときや力を抜いているときは、筋肉が休んでいる状態ですから、関節は骨や靭帯に「寄りかかった」状態になります。

仰向けに寝たときに見えるつま先の向きは、その人の関節が筋肉の支えなしにいちばん落ち着く位置を、そのまま映し出しているのです。これは言いかえれば、その人の体の「素の姿」のようなもの。だからこそ左右で違いが出るのは、ある意味で当たり前のことなのです。複数の研究で、健康な方であっても脚の付け根の関節が動く範囲には自然と左右差が生じることが報告されています。利き手と利き足があるように、脚の付け根にも「クセ」があると考えれば自然なことですね。

先日、60代の女性がこんなお話をされていました。「娘に『お母さん、寝たとき右足だけ外を向いているよ』と言われて、ずっと骨盤がゆがんでいるんだと思って気にしていたんです。整体に通っても通っても直らないと焦っていたんですけど、もともと左右でクセが違うだけだと知って、ずいぶん気持ちが軽くなりました」と。原因を正しく理解することで、体そのものよりも先に、心のほうがふっと軽くなることがあります。「直さなければならない」という思い込みから解放されると、無理な力みも抜けやすくなり、結果的に体の動きが楽になっていく。そんな循環が起きることもあるのですね。※効果には個人差があります。
どんなときに気をつけたほうがいいのか
左右差そのものは心配いらないとお伝えしてきましたが、1つだけ確認しておきたいポイントがあります。それは、脚の付け根を内向きと外向きにそれぞれ動かしたときの「合計の動く範囲」です。向きの偏りには左右差があってもよいのですが、合計については、健康な方では左右で大きな差が出にくい傾向があることが知られています。Hattoriらが行った2021年の研究でも、健康な若い方では左右の合計の動く範囲がおおむね均衡していたと報告されています。

たとえば右足は外向きが大きく内向きが小さい、左足はその逆、というような偏りはあっても、足し算した合計が片側だけ極端に少ないようであれば、関節そのものの柔らかさが落ちていたり、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう。股関節の軟骨がすり減って痛みや動きにくさが出る状態)などの問題が隠れている可能性があります。仰向けに寝て、両脚を伸ばしたまま、片足ずつかかとを軸にして、つま先を内側にゆっくり倒したり、外側にゆっくり倒したりしてみてください。脚全体が一緒にねじれる動きになります。それぞれどこまで倒せるかを、左右の脚で比べてみるとよいでしょう。極端に動きにくい側があったり、痛みが出る場合は、無理に動かさないことが大切です。
もう1つ、つま先の向きには見落としてはいけない要因があります。それは太ももの骨が、生まれつき持っているねじれの角度です。太ももの骨は脚の付け根から膝までを通っている一番大きな骨ですが、まっすぐな棒ではなく、上の方と下の方で少しねじれた形をしています。普通はおよそ15度から20度のねじれがあるのですが、人によってかなり差があります。とくに女性に多いのですが、このねじれが30度から40度と強い方は、立ったときに膝のお皿が内側を向きやすい傾向があります。いわゆる「内股」に見える方ですね。こうした方が無理につま先を外に向けようとすると、膝に余計なねじれの負担がかかってしまいます。骨そのものの形は、ストレッチや姿勢の意識では変わりません。生まれ持った骨の特性を理解せずに見た目の形だけ揃えようとすると、かえって膝や脚の付け根を傷めることにもなりかねないのです。「左右で同じ向きにしなければ」と無理に揃えようとする必要は、まったくありません。
そういう体なのだと、受け止めてみる
ここまでお話ししてきたように、寝ているときのつま先の向きは、力を抜いて骨に寄りかかった結果ですから、左右差があってもそれほど心配する必要はありません。
つま先の向きが左右で違うという事実は、それだけでは「異常」のサインではありません。むしろ、力を抜いたときの体のクセを、正直に映し出しているだけのことが多いのです。ご自身の体には、生まれ持った形と、長年積み重ねてきたクセが共存しています。そのどちらも、無理に直そうとせずに、まずは「そういう体なのだ」と知ることから始めてみる。今夜、布団に入ったとき、つま先の向きを「ゆがみ」ではなく「自分の体からの便り」として、少しだけ穏やかに眺めてみてはいかがでしょうか。




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