肩の痛みが気になる方


「肩が痛い」というひと言でも、実際に痛みが生じている場所や原因は人によってまったく異なります。

腕の骨と肩甲骨がかみ合う関節の中で腱や靭帯が傷んでいる場合もあれば、骨と骨の間でクッション役の組織が挟み込まれている場合、首から腕にかけての神経が引っ張られている場合、あるいは肩まわりの筋肉そのものが長年の緊張で疲弊している場合など、見た目には同じ「肩の痛み」でも、その正体はさまざまです。

さらに肩は、鎖骨・肩甲骨・胸のまわりの骨格・背骨と連動して動く構造をしているため、肩そのものだけでなく姿勢や体幹の状態が深く関わっていることも少なくありません。

このページでは、肩の前側・外側・後ろ側・上部・深部のそれぞれに起こりやすい病態の特徴をご説明します。

肩がこんな時に痛む、部位別まとめ

肩の前側の痛み

上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)は、ある日突然というより、気づかないうちに少しずつ積み重なって起きる痛みです。洗濯物を干したり高い棚のものを取ったりするとき、腕を前に持ち上げるある角度で「ズキッ」と鋭い痛みが走るようになります。

下ろしてしまえば気にならないのに、また同じ角度になると痛む。その繰り返しが始まったら、肩の前側で何かが起きているサインです。

肩の前側には、肘を曲げるときに使う筋肉が肩の奥から腕の骨の上端にある溝まで通る細長い腱が縦に走っており、腕の骨の丸い先端部分をうえから押さえて安定させる役割も担っています。

ところが、加齢や使い過ぎで肩まわりの筋肉が弱ってくると、腕を動かすたびに肩の外側の大きな筋肉が過剰に働いて腕の骨の先端を上へ引き上げてしまいます。

その結果、腱が骨の溝にこすりつけられることを何度も繰り返し、じわじわと傷んでいきます。

加齢とともに腱への血のめぐりが悪くなると修復が追いつかなくなり、猫背で肩甲骨が外側に開いた姿勢が続くと溝の入り口がさらに狭まるため、重いものをよく持つ50〜70代の方に起こりやすい痛みです。

【出典】Long head of the biceps tendinopathy: diagnosis and management



烏口突起下インピンジメント(うこうとっきかインピンジメント)は、背中のファスナーを上げようとしたとき、エプロンの紐を後ろで結ぼうとしたとき、お風呂で背中を洗おうとしたとき、ふと「肩の前が引っかかる」と感じることから気づく痛みです。

腕を背中側に回しきった最後のところで、肩の奥が「つまった」ような感じとともに痛みが走ります。

肩の前側の奥深くには、肩甲骨の前面から突き出した小さな骨の突起(烏口突起:うこうとっき)と腕の骨の上端をつなぐ帯状の靭帯があります。

猫背や長年のデスクワークでこの靭帯が縮んで厚くなってくると、腕を内側にひねったときに腕の骨の上端にある小さな丸い出っ張り(小結節:しょうけっせつ)が烏口突起にぶつかるようになります。

そしてその間に挟まれた組織が圧迫されて痛みが生まれます。背骨が丸まった姿勢では肩甲骨がさらに前に傾き、二つの骨の間隔がいっそう狭くなります。

四十肩・五十肩とも呼ばれる肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)の後遺症として残ることも少なくありません。

この部位にも痛みが出ることがある病態:肩関節周囲炎(炎症期・拘縮期)、胸郭出口症候群

【出典】The effect of long versus short pectoralis minor resting length on scapular kinematics in healthy individuals

肩の外側の痛み

肩峰下インピンジメント症候群(けんぽうかインピンジメントしょうこうぐん)には、ちょっと不思議な特徴があります。

腕を横に持ち上げていくと、肩の高さに近づいたあたりで急に痛みが強くなる。

ところがそこを越えてさらに高く上げると、今度は逆に楽になるのです。髪を洗う・棚の物を取るといったなにげない動作のたびに、肩の外側からジンジンとした鈍い痛みが出るようになります。

肩の先端には肩甲骨から前方に張り出した骨の出っ張り(肩峰:けんぽう)があり、腕の骨の丸い先端部分との間をクッション役の腱と袋状の組織がくぐり抜けるように通っています。

本来、腕を持ち上げるときには肩まわりの4つの筋肉のまとまり(腱板:けんばん)が腕の骨の先端を下に引きつけてバランスを取るのですが、この働きが弱まると、肩の外側の大きな筋肉の引き上げる力だけが勝って先端が骨の出っ張りに押しつけられてしまいます。

こうして腱や袋状の組織が繰り返し挟み込まれるうちに、袋が腫れて空間がさらに狭くなる悪循環に陥ります。

腕を持ち上げる作業が多い方、猫背で肩甲骨の動きが悪い方に起こりやすい痛みです。
【出典】Detection of subacromial bursa thickening by sonography in shoulder impingement syndrome

腱板損傷・腱板断裂(けんばんそんしょう・けんばんだんれつ)では、気づいたら腕が上がらなくなっていた、という経過をたどることがあります。

自力で横に腕を持ち上げようとしても力が入らず、家族に支えてもらうと高く上げられるのに、手を離すとパタンと落ちてしまう。

肩の外側から腕にかけての重だるさが続き、夜中に痛みで目が覚めることもあります。

肩まわりの4つの筋肉のまとまり(腱板)のうち、腕を真横に持ち上げるときに主に働く筋肉が切れてしまうと、腕の骨の先端を関節の中心に引きつけるアンカーが失われます。

そのため肩の外側の大きな筋肉が収縮するたびに先端が上へ浮き上がり、残った筋肉にしわ寄せがかかり続けます。

加齢によって腱は水分と弾力を失って脆くなるため、50〜70代ではちょっとした転倒や高いものを無理に引き下ろす動作がきっかけで断裂することがあります。

腕がほとんど上がらない状態が長く続く場合は、断裂の範囲が大きい可能性があります。施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。

石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)は、何の前触れもなく、突然やってくることで知られている痛みです。

昨日まで何ともなかったのに、夜中に突然「今まで感じたことのない激烈な痛み」が肩に走り、腕をほんの少し動かすだけでも激痛が走る。

朝になっても、安静にしていても治まらない。こうした経験をされた方は、肩の筋肉の腱の中に石灰が溜まっていた可能性があります。石灰は長い時間をかけて少しずつ積み重なり、痛みもなく静かに形成されます。

慢性化すると腕を上げる途中の引っかかりと鈍い痛みとして続くこともあります。

腫れが非常に強い時期は患部を刺激しないよう安静を保つことが優先されます。

腫れが落ち着いたら施術に移ることができますが、施術を重ねても症状がなかなか変わらない場合は、手技以外の治療が必要と判断したときに適切な医療機関をご案内することもあります。

この部位にも痛みが出ることがある病態:肩関節周囲炎(炎症期・拘縮期)、棘下筋・小円筋炎、肩峰下滑液包炎

肩の後ろ側の痛み

肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)の炎症期、いわゆる四十肩・五十肩の初期では、「夜中に肩が痛くて目が覚める」というつらい経験から始まることがよくあります。

骨の奥から脈打つような強い痛みが肩の後ろ側に生じ、横向きに寝ても仰向けに寝ても落ち着かず、眠れない夜が続きます。

腕を動かすたびにズキッと痛みが走り、じっとしていても鈍い痛みが消えません。

関節の内側を覆う薄い膜に腫れが生じると、関節の中に流れ込む血液が増える一方で、肩の後ろ側の筋肉や関節を包む袋がこわばって血液の流れが滞ります。

こうして腕の骨の先端部分の中の圧力が高まることが、あの強烈な夜間痛の正体と考えられています。40〜60代で突然発症することが多く、糖尿病や甲状腺疾患のある方に起きやすいとされています。

腫れが非常に強いこの時期は、無理に肩を動かすことは逆効果になることが多く、まず安静を保ちながら痛みの状態を見ていくことが大切です。

施術を続けても思うように痛みが落ち着かない場合は、手技以外の治療が必要と判断したときに適切な医療機関をご案内することもあります。

肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)の拘縮期、四十肩・五十肩の慢性期では、激しい夜間痛が少し落ち着いてきたと思ったら、今度は「肩が固まって動かない」という悩みが前面に出てきます。

背中のファスナーを上げようとする・エプロンの紐を後ろで結ぼうとする・お風呂で背中を洗おうとする、そのたびに肩の後ろ側から脇の下にかけて強い引きつりに阻まれます。

もがいても動かない。その限界のところで痛い。「これは炎症のズキズキした痛みとは違う」と感じたら、この段階に入っているサインです。

関節の内側を覆う薄い膜の慢性的な腫れで組織が酸素不足になると、柔らかい組織が硬いたんぱく質で固められてどんどん硬くなっていきます。

特に関節を包む袋の前上方にある帯状の靭帯の周辺と、腕を高く上げるときに必要な袋の下側のたるみの部分で硬化が著しく進むため、腕の骨の先端が受け皿の中で正しく回転できなくなります。

さらに肩の後ろ側の筋肉が縮まることで腕の骨が前方へ押し出され、あらゆる方向への動きがいっそう妨げられます。

【出典】The pathology of frozen shoulder. A Dupuytren-like disease

四十肩・五十肩の詳細ページ



棘下筋・小円筋炎(きょくかきん・しょうえんきんえん)は、日常の中のちょっとした動作で気づくことが多い痛みです。

タオルを絞るとき・ドアノブを回すとき・腕を後ろに伸ばすとき、肩の後ろ側から肩甲骨の外縁にかけてじわじわとした鈍い痛みが走ります。

痛みのある側を下にして横になると、押されてズキッと強くなることもあります。

肩甲骨の裏側から腕の骨の外側につながる2つの筋肉が、腕をひねりながら関節を安定させる役割を担っているのですが、パソコンを長時間使う・料理で腕を前に出したままにする・前かがみの姿勢が続くうちに、これらの筋肉がずっと引き伸ばされたまま緊張しっぱなしの状態に陥ります。

筋肉の中の血のめぐりが悪くなり、疲労物質が溜まっていき、やがて痛みとして表に出てきます。

またこの筋肉が硬くなると腕の骨の先端が前方へ押し出されるため、他の肩の症状と重なって全体的な悪化を招くことがあります。

この部位にも痛みが出ることがある病態:肩関節不安定症、頚肩腕症候群

肩の上部の痛み

肩鎖関節損傷(けんさかんせつそんしょう)は、肩の一番上をそっと指で押してみると、ズキッと強い痛みが返ってくる状態です。

バッグの肩紐がそこに当たるだけでも痛く、腕を高く伸ばす動作でも表面に近い鋭い痛みが出ます。

鎖骨と肩甲骨がつながるこの小さな関節は、腕を持ち上げるたびに二つの骨が互いに少しずつずれ動く力と、腕を高く上げたときの最後に加わるひねりの力を、日々繰り返し受け続けています。

肩甲骨か鎖骨のどちらかの動きが悪くなると、その無理のしわ寄せがすべてこの小さな関節一点に集中します。

転倒して肩を直接打ちつけたことによる急性の損傷のほか、長年の猫背姿勢でじわじわと摩擦が積み重なって起こることもある、意外と見落とされやすい痛みです。

この部位にも痛みが出ることがある病態:石灰沈着性腱板炎、肩コリ症、頚肩腕症候群

肩の深部・複合的な痛み

肩峰下滑液包炎(けんぽうかかつえきほうえん)は、どこが痛いとはっきり指せない、肩の奥全体がじわじわ重だるく痛む状態です。

熱っぽさを感じることもあり、腕を少し動かすたびに痛みがじわりと増します。

肩の先端の骨の出っ張りと腱の間には、二つの組織がスムーズに動けるようクッション役を果たしている小さな袋があります。

この袋が繰り返しの摩擦や圧迫で傷んで液体が溜まり、風船のように膨らんでくると、安静にしていても深部の鈍痛として感じられるようになります。

肩まわりの筋肉が弱って腕の骨の先端が上に浮きやすくなっている方や、肩の挟み込みの症状が長く続いている方に、この袋の腫れが二次的に加わることが多くあります。

肩コリ症は、突然ではなく「いつの間にか慢性化していた」という痛みです。

仕事が終わったあと・家事を一通りこなしたあと、ふと気づくと肩から首のつけ根にかけてずっしりとした重さとだるさを感じている。

朝は多少楽でも、夕方になるとまた重くなる。

その繰り返しがいつしか当たり前になっていませんか。

頭が前方に出た姿勢が続くと、首の後ろから肩・肩甲骨にかけて広く覆っている大きな筋肉が、重い頭を支えるために一日中緊張し続けます。

休む間もなく収縮しっぱなしの状態では筋肉の中の血のめぐりが低下し、疲労物質が流れ出にくくなって重だるさが溜まり続けます。

また肩甲骨が外側に開いた姿勢では、肩甲骨を背骨に引き寄せる筋肉も引き伸ばされたまま固まっていくため、肩まわり全体がこわばった状態に陥ります。

肩コリ症の詳細ページ



胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)は、「腕を上に挙げると手がしびれる」「重いものを持つとじんじんする」という体験から気づくことが多い痛みです。

ひどい場合は安静にしていてもしびれが続き、腕全体がだるく力が入りにくくなります。

首から腕にかけての神経の束は、首の前側にある筋肉の間・鎖骨と一番上の肋骨の間・胸の前面にある薄い筋肉の下という3か所の狭い通り道をくぐり抜けています。

背中が丸まって頭が前へ出た姿勢が長く続くと、鎖骨と肩甲骨が下方に引き下がり、腕の重みで肩全体が垂れ下がります。

するとこの3か所の通り道が狭まり、神経が持続的に引っ張られたり圧迫されたりするようになります。

なで肩の方、長時間のデスクワークや手作業が続く方に起こりやすいです。

【出典】Thoracic outlet syndrome part 1: clinical manifestations, differentiation and treatment pathways

頚肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)は、首・肩・腕にまたがって痛みやしびれが広がる状態をまとめて指す名前です。

朝起きたときに首から腕にかけてしびれている・首を後ろに反らすと腕に電気が走る・同じ姿勢を続けたあとに腕がだるくてたまらない、といった症状が重なって現れます。

原因はひとつではなく、首の背骨の軟骨が加齢で変性して神経の根元を圧迫しているケース、首の前側や胸の前面の筋肉が縮んで神経の束を引っ張っているケース、肩まわりの筋肉のこわばりが絡み合っているケースなど、複数の要因が重なって起きることがほとんどです。

手先の強いしびれや握力の著しい低下、ボタンのかけ外しなど細かい動作が難しくなってきた場合は、神経への影響が強く出ている可能性があります。

施術を進めながら経過をていねいに確認し、手技だけでは対応が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。

肩関節不安定症(かたかんせつふあんていしょう)は、「肩が抜けそう」という感覚が痛みより先に来るのが特徴です。

腕を横に広げてひねったり大きく後ろに引いたりするとき、肩の奥でカクッとした不安定な感覚が走り、そのあとじわじわとした深い痛みが続きます。

「また抜けそう」という不安があるため、腕を大きく動かすたびに体が身構えてしまいます。

腕の骨の丸い先端部分が収まる受け皿(肩甲骨のくぼみ)の縁には、縁をさらに高くして外れにくくする線維性の軟骨がついています。

この軟骨が過去の脱臼などで傷んでいると、先端が受け皿から前方や下方に抜け出しやすくなります。

さらに肩まわりの4つの筋肉のまとまり(腱板)が弱くなると、先端を引きとめる力がいっそう失われて不安定さが増します。

若い頃から肩の脱臼を繰り返してきた方、スポーツで肩を酷使してきた方にとっては、長年のつきあいになりやすい痛みでもあります。

「痛い場所」と「負担がかかっている場所」は一致しないことが多い

肩の痛みで難しいのは、感じる痛みの場所と実際に組織が傷んでいる場所が必ずしも一致しないという点です。

たとえば肩の後ろ側の筋肉が硬くなることで腕の骨が前方へ押し出され、前側の組織が圧迫されて「前が痛い」と感じることがあります。

また肩甲骨や鎖骨の動きが悪くなると、腕の骨だけがすべての動作を引き受けることになり、腱や関節を包む袋に過大な負担が集まります。

肩の痛みは背骨の柔軟性・肩甲骨の動き・鎖骨の回旋・体幹の向きが複雑に絡み合っており、日常の同じ姿勢・同じ動作の繰り返しでこうした連鎖が積み重なっていくのが多くのケースの正体です。

痛みが出ている場所だけを見るのではなく、なぜそこに負担が集まっているのかを体全体から考え、肩甲骨や背骨の動きを取り戻しながら腕の骨の先端が受け皿の中で安定して動けるよう導いていくことが、根本的なアプローチにつながります。