股関節の痛みが気になる方

股関節は、骨盤の受け皿と太ももの骨の丸い部分が合わさる関節です。

ここは体重が強くかかるため、骨の形や、筋肉の順番、骨盤の傾き、関節まわりの軟らかい組織がうまく働かないと、同じ所に負担が集まりやすくなります。

とくに多いのが、受け皿が浅めの股関節です。この場合、関節の中心にグッと押し込む力が弱くなり、体重が一部に片寄りやすくなります。

その結果、関節の中や周りの組織が過敏になり、痛みや動かしにくさが出ます。ここで大事なのは、画像で変形が見えても、痛みの強さと一致しないことがある点です。

痛みの主体は、関節包(かんせつほう:関節を包む袋)や滑液包(かつえきほう:こすれを減らす袋)、筋膜(きんまく:筋肉を包む膜)、脂肪体(しぼうたい:クッションの組織)など、軟らかい組織の負担で起きることが多いからです。

だからこそ、手技療法やリハビリ、運動、生活の工夫で改善が期待できます。

部位別にみる股関節痛の種類

股関節の前側の痛み

変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう:股関節の軟骨が摩耗し、骨の形が変わっていく病態)は気づかないうちに少しずつ積み重なって起きる痛みです。

最初は長く歩いた日の夕方に太もものつけ根が鈍く重だるく感じる程度だったのが、やがて歩き始めの一歩目に前側がズキッとするようになり、靴下を履こうと足を持ち上げると強い痛みで動きが止まる、という経過をたどることがあります。

進行すると、和式のトイレに座れない、あぐらがかけない、爪が自分で切れないなど、股関節を曲げながら内側にひねる動作が軒並み難しくなります。

なぜこのようなことが起きるのか。正常な股関節では、寛骨臼(かんこつきゅう:骨盤にある椀型のくぼみで、大腿骨頭を受け止める部分)が大腿骨頭(だいたいこっとう:太ももの骨の上端にある丸い部分)を深く覆っているため、体重が関節面全体に均等に分散されます。

ところが日本人の場合、生まれつきこの寛骨臼の覆いが浅い臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん:寛骨臼のくぼみが浅く、骨頭を十分に覆えない状態)を持つ方が多く、そのような方では関節面のごく一部に体重が集中するため、長年のうちに軟骨が少しずつ削れていきます。

軟骨には血管が通っておらず、いちど傷んだ部分は自力では修復されにくいため、削れた部位の下の骨が硬くなり、縁に棘状の突起(骨棘:こつきょく)が形成されて関節のすき間が狭くなっていきます。加齢によって軟骨の水分が減り弾力が失われることも摩耗を加速させます。

さらに、痛みをかばうために股関節を少し曲げた姿勢で過ごし続けると、関節を前から引っ張る腸腰筋(ちょうようきん:背骨と太ももをつなぐ深い筋肉)が縮んだまま固まります。

こうなると体全体で腰を反らして歩こうとするため腰にも余計な負担がかかり、股関節と腰の両方が痛むという状態に発展することがあります。

歩くときに骨盤を安定させる中殿筋(ちゅうでんきん:骨盤の外側から大転子につながる筋肉)の働きが落ちると、立脚時に骨盤が横に傾いて関節への圧力がさらに高まり、悪循環が続きます。

前期から初期の段階では骨や軟骨よりも周囲の軟部組織が痛みの主な発生源となることが多いため、この時期に手技療法や運動療法で関節の安定性と可動域を取り戻すことが、進行を緩やかにすることにつながります。

施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。

【出典】Chronically elevated contact stress exposure correlates with intra-articular cartilage degeneration in patients with concurrent acetabular dysplasia and femoroacetabular impingement

大腿骨寛骨臼インピンジメント(だいたいこつかんこつきゅうインピンジメント:股関節の骨同士が動くたびに衝突を繰り返す病態。FAIとも呼ばれます)は深く腰かけた椅子から立ち上がろうとしたとき、あるいは床に落としたものを拾おうと前かがみになったとき、太もものつけ根の前側にズキッとした鋭い痛みが走ることから気づく痛みです。

同時に、股関節が引っかかるような感覚や、動きの途中で何かに当たる感じを覚えることもあります。

これは、大腿骨の頸部(けいぶ:骨頭と骨幹部をつなぐ細い部分)または寛骨臼の縁に余分な骨の出っ張りがあることで、股関節を深く曲げたり内側にひねったりする動作のたびに骨同士が衝突し、関節の縁を覆う軟骨が繰り返し傷つけられる状態です。

骨の形の問題だけでなく、臀部(でんぶ)の筋肉が硬くなって大腿骨頭が前方にはみ出しやすくなることも衝突を起こしやすくする原因となります。

後方の筋肉が硬いと、股関節を曲げるたびに骨頭が前に押し出され、前方の組織に余計な力がかかり続けます。

この後方の硬さが前方の衝突を引き起こすという連鎖は、手技療法による後方組織の柔軟性の回復と、股関節を安定させる深部の筋肉の機能訓練によって改善が期待できます。

施術を重ねても症状がなかなか変わらない場合は、手技以外の治療が必要と判断したときに適切な医療機関をご案内することもあります。

【出典】The Concept of Femoroacetabular Impingement: Current Status and Future Perspectives

腸腰筋炎(ちょうようきんえん:股関節の前を通る深い筋肉に過度の負担がかかって腫れと痛みを生じた状態)は階段を一段踏み上げるとき、あるいは坂道で一歩踏み出すたびに、太もものつけ根の深いところから焼けるような痛みがのぼってくることがあります。

安静にしていれば落ち着くものの、また動き出すと同じ場所が痛む、という繰り返しに疲れている方もいるかもしれません。

腸腰筋は背骨の腰の部分と骨盤の内側から太ももの骨の内側上部にかけてつながっており、足を前に踏み出すときに大きく働きます。

長時間の椅子座りで股関節が曲がったままの時間が続くと腸腰筋は縮んだ状態で固まりやすく、立ち上がった瞬間に急激に引き伸ばされて組織に細かな傷が積み重なります。

加齢によって筋肉への血流が低下すると修復が追いつかなくなり、鈍い痛みが慢性化します。

また、変形性股関節症や臼蓋形成不全で関節が不安定になると、骨頭を安定させようとして腸腰筋が過剰に収縮し続けるため、この筋自体が酷使されて痛みを生じることもあります。

腸腰筋は股関節を安定した位置に保持する役割も担っているため、この筋肉の柔軟性と収縮力を取り戻すことが、股関節全体の安定につながります。

【出典】Iliopsoas Tendinopathy

この部位にも痛みが出ることがある病態:鼠径部痛症候群、恥骨炎

股関節の外側の痛み

大転子部滑液包炎(だいてんしぶかつえきほうえん:太ももの骨の外側にある出っ張りの周囲にある小さな袋が腫れて痛む状態)は横向きに寝ると太もも外側の出っ張りが床に当たって目が覚める、あるいは椅子から立ち上がって歩き始めの数歩で外側がズキッとする、という痛みです。

しばらく歩いていると少し楽になるものの、長く歩くとまた同じ場所が鈍く重だるくなってきます。

大転子(だいてんし:太ももの骨の外側にある大きな出っ張り)の表面には、摩擦をやわらげるための小さな袋(滑液包:かつえきほう)が複数あります。

中殿筋や大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん:骨盤の前外側から太ももの外側を通って膝まで続く筋肉)が大転子の上を繰り返しこすれることで、この袋が腫れて痛みを生じます。

股関節の可動域が狭くなると骨盤が左右に揺れる歩き方になり、大転子の上を筋肉がより強くこするようになります。

また、骨盤が後ろに傾いている姿勢では大腿筋膜張筋が常に張った状態になり、大転子への摩擦が増えます。

加齢によって筋肉の弾力が落ちると骨の出っ張りに対するクッションが失われて腫れが起きやすくなり、さらに中殿筋の筋力が低下すると歩くたびに骨盤が横に傾いて同じ摩擦を繰り返す悪循環が生まれます。

【出典】Gluteal Tendinopathy: Integrating Pathomechanics and Clinical Features in Its Management

中殿筋腱症(ちゅうでんきんけんしょう:骨盤の外側から大転子につながる中殿筋の腱が、繰り返しの負担で変性して痛む状態)は歩いているときより、片脚に体重をかけた瞬間に外側がズキッとするという痛みです。

信号待ちで片方に体重をずらしたときや、階段を上り始めの一段目で太もも外側の付け根に鋭い痛みが走り、押すと大転子の少し上、骨盤の縁に近い部分が強く痛みます。

中殿筋は歩くときに遊脚側(地面から離れている側)の骨盤が落ちないよう支える重要な筋肉です。

この筋肉の腱は大転子の先端に付着していますが、股関節の軸がずれていたり骨盤の傾きが変化したりすると腱が骨の出っ張りに強くこすれ続け、腱の内部で細かい損傷が繰り返されます。

加齢によって腱の繊維に血液が届きにくくなると傷ついた部分の修復が追いつかず、腱の組織が徐々に硬くなります。

対側の中殿筋が弱ると患側でより大きな力が必要となり悪循環が生まれます。骨盤の傾きを支える腰部・骨盤周囲の筋肉全体のバランスを見直すことが、腱への局所的な負担を減らすことにつながります。

【出典】Gluteal Tendinopathy: A Review of Mechanisms, Assessment and Management

小殿筋症候群(しょうでんきんしょうこうぐん:骨盤の外側面の最も深い層にある小殿筋が過緊張・変性して、外側からお尻にかけて鈍い痛みが続く状態)は歩いているとお尻の外側から太ももの外側にかけて鈍く重だるい痛みが広がり、長く立っているだけでも同じ場所が疲れるように痛む、という形で気づくことが多い痛みです。

中殿筋腱症と症状が似ていますが、押したときに痛みが出る場所がやや深く、骨盤の外側面のより奥まった部分に集中します。

小殿筋(しょうでんきん:中殿筋のさらに深層にあり、骨盤の外側面から大転子の前面に付着する筋肉)は、歩くときに股関節を内側に安定させる役割を担っています。

中殿筋が疲弊すると小殿筋がその代わりに過剰に働こうとするため、深部での負担が積み重なります。

また、骨盤が後傾して股関節が外側にひねれた姿勢が続くと、小殿筋は引き伸ばされながら収縮し続けるという無理な状態に置かれます。

加齢によって深部の筋肉ほど血流が低下しやすく、修復力が落ちた状態で過剰な収縮が続くと、筋肉の内部で鈍い痛みが慢性化します。

表面からは触れにくい筋肉であるため見逃されやすく、手技療法で深部からアプローチすることで改善が期待できます。

【出典】Tendinosis and tears of gluteus medius and minimus muscles as a cause of hip pain: MR imaging findings

腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん:骨盤から膝にかけて太もも外側を走る太い靭帯が、大腿骨の外側の出っ張りでこすれて痛む状態)は歩き始めは何ともないのに、ある程度歩いたところから外側が焼けるような痛みになり、歩くたびに太もも外側が鋭く痛む、という経過が特徴です。

腸脛靭帯は骨盤から始まり太もも外側を通って膝のすぐ下まで続く長い組織ですが、太ももの骨の外側の出っ張りの上を繰り返し通過するたびに摩擦が生じます。

股関節の外側の筋肉(大腿筋膜張筋・中殿筋など)が硬く縮むと靭帯全体が緊張した状態になり、骨の出っ張りとのこすれがさらに強くなります。

O脚傾向のある方や、骨盤が横に傾く癖のある歩き方の方では、太ももの骨が内側にひねれる向きに力がかかりやすいため、靭帯への摩擦が増えます。

手技療法で外側の筋肉の滑走性を回復させ、骨盤の安定した歩き方を取り戻すことで改善が期待できます。

【出典】Hip abductor weakness in distance runners with iliotibial band syndrome

この部位にも痛みが出ることがある病態:変形性股関節症、弾発股

股関節の後ろ側・お尻の痛み

梨状筋症候群(りじょうきんしょうこうぐん:お尻の深い部分にある梨状筋が坐骨神経を圧迫して、お尻から太ももに向けて痛みや鋭い感覚が広がる状態)は長時間座り続けた後に立ち上がろうとすると、お尻の深いところから太ももの裏にかけて針で刺すような感覚や鋭い痛みが走ることがあります。

歩いているうちに少し楽になることもありますが、また座るとぶり返します。

お尻の奥には梨状筋(りじょうきん:仙骨と大転子をつなぐ小さな筋肉で、股関節を外側にひねるときに働く)という筋肉があり、その近くを坐骨神経(ざこつしんけい:腰から足先まで続く太い神経)が通っています。

股関節の前側の筋肉(腸腰筋など)が硬く縮むと、それを補うようにお尻の外旋筋(がいせんきん:股関節を外側にひねる小さな筋肉群)が過剰に働き続けて硬くなり、梨状筋が神経を圧迫しやすい状態になります。

また、骨盤が後ろに傾いている姿勢では股関節がわずかに曲がった状態が続き、梨状筋が引き伸ばされながら緊張を強いられます。

加齢によって筋肉の水分量が減って柔軟性が低下すると、日常的に神経への圧迫が続きやすくなります。手技療法でお尻深部の筋肉の緊張をほぐし、骨盤の傾きを改善することで神経への圧迫が軽減され、症状の改善が期待できます。

強いしびれや足の力が入りにくい症状が続く場合は、施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。

【出典】The clinical features of the piriformis syndrome: a systematic review

坐骨結節部滑液包炎(ざこつけっせつぶかつえきほうえん:坐骨の出っ張り部分にある緩衝用の袋が腫れて痛む状態)は硬い椅子に長く座っていると、お尻の座面に当たる部分が鈍く重だるく痛む、あるいは立ち上がったときに坐骨(ざこつ:骨盤の下端にある出っ張りで、座ったときに体重を受ける部分)の当たりが強く痛む、という形で気づく痛みです。

坐骨結節(ざこつけっせつ:坐骨の先端の突起)には、座るときの摩擦を吸収する小さな袋があります。

体重が一方のお尻に偏った座り方や、座面に強く打ち付けるような動作が繰り返されると、この袋が腫れて痛みを生じます。

股関節が深く曲がった姿勢で長時間過ごすと坐骨の出っ張りへの圧力が高まり、特に痩せていて皮下脂肪が少ない方では緩衝材となる組織が薄いため症状が出やすくなります。

骨盤が後傾した座り姿勢では坐骨への集中的な圧力がさらに増すため、骨盤の傾きを前方向きに保つ座り方の指導と、周囲の筋肉の緊張をほぐす手技療法が症状の改善につながります。

【出典】Ischial Bursitis

この部位にも痛みが出ることがある病態:梨状筋症候群、変形性股関節症

股関節の内側・鼠径部の痛み

鼠径部痛症候群(そけいぶつうしょうこうぐん:足のつけ根の内側から前にかけて、特定の原因に絞り込みにくい慢性的な痛みが続く状態)はいつの間にか慢性化していた、という痛みです。

最初は歩き終わったあとに足のつけ根の内側が鈍く重だるく感じる程度で、休めば消えると思っていたのに、気づけば椅子から立ち上がるたびに前側が引っかかるように痛むようになっていませんか。

鼠径部(そけいぶ:足のつけ根の前内側にある折れ目のあたり)には、股関節の関節包の前面・内転筋群(ないてんきんぐん:太ももを内側に閉じる筋肉群)の起始部・この部位を通るトンネル状の構造(鼠径管:そけいかん)などが密集しており、どこに原因があるかを一つに特定できないことが多い部位です。

股関節の動きが狭くなると、歩くたびに骨盤が過剰に揺れて鼠径部の組織に繰り返し摩擦と引っ張りが加わります。

内転筋群は骨盤の安定にも関わっているため、股関節周囲の筋力バランスが崩れると内転筋が代わりに過剰に働き、起始部に疲労が蓄積します。

腰椎の前弯(ぜんわん:腰のS字カーブ)が失われて骨盤が後ろに傾いた姿勢では、鼠径部の組織が慢性的に引っ張られた状態になり、痛みが続きやすくなります。

手技療法と骨盤アライメントの改善、日常の姿勢の見直しを組み合わせることで、慢性的な負担のかかり方を変えることが期待できます。

【出典】Clinical Examination, Diagnostic Imaging, and Testing of Athletes With Groin Pain: An Evidence-Based Approach to Effective Management

内転筋腱症(ないてんきんけんしょう:太ももの内側の筋肉が恥骨に付着する部分で腱が変性して痛む状態)は太ももを閉じようとすると内側の上部がズキッとする、あるいは足を外側に開こうとしたときに内側が引き裂かれるような痛みを感じる、という形で現れることが多い痛みです。長い距離を歩いたあとや、坂道・段差での踏み込みのあとに特に強く出ます。

内転筋群は骨盤の下端や前側に付着しており、歩くときに骨盤を安定させながら足を前後に動かす際に常に働いています。

変形性股関節症などで関節の安定性が低下すると、骨盤を支えようとして内転筋が過剰に収縮し続け、腱の付着部に繰り返し引き抜くような力がかかります。

加齢によって腱への血流が減ると修復力が落ち、小さな損傷が積み重なって慢性的な痛みになります。

また、骨盤が後傾していると内転筋の腱が引き伸ばされた位置で常に張力を受けるため、腰椎の前弯を取り戻して骨盤の傾きを前方向きに戻すことが内転筋への過剰な負担を減らすことに直結します。

手技療法で腱周囲の滑走性を回復させ、骨盤の安定を支える筋肉全体を機能させる運動療法を組み合わせることで改善が期待できます。

【出典】Groin pain syndrome: an association of different pathologies and a case presentation

恥骨炎(ちこつえん:左右の恥骨が合わさる部分(恥骨結合:ちこつけつごう)に繰り返しの負荷がかかって痛む状態)は歩くたびに足のつけ根の真ん中あたり、下着の当たる部分の少し上がズキッと痛む、あるいは片脚で体重を支える瞬間に骨盤の前側の中央が鋭く痛む、という形で気づく痛みです。

押すと恥骨の合わせ目の部分に強い痛みがあり、左右に足を開く動作でも同じ場所が引き裂かれるように痛みます。

恥骨結合は左右の骨盤をつなぐ軟骨性の関節で、通常はほとんど動きません。

しかし、歩くたびに左右の脚が交互に前後に動くことで、この関節には微細なずれが繰り返し加わります。

内転筋群が過剰に緊張していると、内側に引き込む力が恥骨結合に集中しやすくなり、骨盤の安定性が低下している状態ではそのずれがさらに大きくなります。

臼蓋形成不全や変形性股関節症で股関節の安定性が落ちていると骨盤全体が揺れやすくなり、恥骨結合への負担が増えることもあります。

加齢によって軟骨性の組織の水分が失われると衝撃を吸収する力が落ち、日常の歩行でも繰り返しの刺激が蓄積しやすくなります。

内転筋の緊張を緩め、骨盤を安定させる深部の筋肉の機能を回復させることで、恥骨結合へのずれの力を減らすことが期待できます。

【出典】Imaging of Groin Pain: Magnetic Resonance and Ultrasound Imaging Features

この部位にも痛みが出ることがある病態:変形性股関節症、腸腰筋炎、内転筋腱症

股関節の深部・複合的な痛み

股関節滑膜炎(こかんせつかつまくえん:関節をくるむ袋の内側を覆う膜が腫れて、深部に痛みや重だるさが続く状態)は股関節の奥のほうがドーンと重だるく、動き始めに深いところで鋭い痛みが走る、という形で現れることが多い痛みです。

安静にしているとある程度楽になるものの、また立ち上がると深部から重い感覚が戻ってくる、という繰り返しが続きます。

関節包の内側には滑膜(かつまく)という薄い膜があり、関節の動きを滑らかにする液体(滑液:かつえき)を作り出しています。

この膜が腫れると関節内の圧力が高まり、股関節を深く曲げた姿勢(椅子に深く腰かけた状態など)で圧力が最も低くなるため、患者は無意識にその姿勢をとりがちになります。

その結果、股関節を曲げたままの時間が長くなり、関節包の前面が短縮して屈曲拘縮(くっきょくこうしゅく:曲がったままで伸ばしにくくなる状態)へと進みやすくなります。

変形性股関節症の進行や、骨盤・腰椎のアライメントの乱れによる関節への過剰な負荷が滑膜の腫れを引き起こすことが多く、原因となっている関節への負荷そのものを減らすことが回復への第一歩になります。

急性期で腫れが非常に強く安静が優先される時期を過ぎれば、手技療法と運動療法が主な対応となります。

【出典】Effects of hip joint position and intra-capsular volume on hip joint intra-capsular pressure: a human cadaveric model

弾発股(だんぱつこ:股関節を動かすたびに筋肉や腱が骨の出っ張りに引っかかって弾けるような感覚や音が起きる状態)には不思議な特徴があります。

股関節を曲げ伸ばしするたびに、外側あるいはつけ根の前側でコリッ・ゴリッとした引っかかりを感じるのに、痛みはそれほど強くない、という段階から始まる症状です。

ところが同じ動作を繰り返すうちに、引っかかりのたびに鈍い痛みや焼けるような痛みが伴うようになり、やがて歩くたびに気になるようになります。

外側で起きる場合は、大腿筋膜張筋から続く腸脛靭帯が大転子の出っ張りの上を繰り返し乗り越えることが原因です。

前側で起きる場合は、腸腰筋の腱が骨盤の前の出っ張り(腸恥隆起:ちょうちりゅうき)にこすれることが原因となります。

どちらも股関節周囲の筋肉のバランスが乱れて特定の腱が過剰に緊張していること、骨盤の傾きが変化して腱と骨の位置関係がずれていることが背景にあります。

加齢によって腱の弾力が失われると、わずかなずれでも骨の出っ張りに強くこすれるようになります。

引っかかりだけで痛みがない段階から手技療法と運動療法に取り組むことで、慢性的な腱の変性への移行を防ぐことが期待できます。

【出典】Coxa Saltans: The Snapping Hip Revisited

股関節拘縮(こかんせつこうしゅく:股関節を包む関節包・靭帯・筋肉が複合的に硬くなって動きが著しく制限された状態)は気づいたら足の爪が自分で切れなくなっていた、靴下を履くのに足を十分に持ち上げられなくなっていた、という経過をたどることがあります。

特に強い痛みがあるわけでもないのに、気づけば股関節が思うように動かなくなっているケースです。

股関節の関節包は前側・後ろ側・内側・外側でそれぞれ異なる神経に支配されており、関節内に腫れが起きたり不安定性による刺激が続いたりすると、その部位の神経と同じ支配領域の筋肉が反射的に緊張し、関節包そのものも時間とともに硬くなっていきます。

痛みを避けようとして股関節を少し曲げた姿勢でいることが多くなると、その姿勢のままで関節包の前面が短縮し、伸ばそうとしても引き裂かれるような抵抗感が出ます。

骨盤の傾きの変化が関節包の緊張に影響することも多く、腰椎の前弯が失われて骨盤が後傾すると大腿骨頭の前方への露出が増え、関節が機能的に不安定な状態になります。

骨盤を前向きに傾ける筋肉である大腰筋(だいようきん:背骨の腰の部分から太ももにつながる深い筋肉)と多裂筋(たれつきん:背骨の後ろ側を支える深い筋肉)が機能不全を起こしていると、骨盤の傾きを元に戻すことが難しくなり、股関節の動きの回復が遅れます。

硬くなった関節包に対しては、関節が最も緩んだ肢位(股関節を少し曲げ、外側に開き、少しひねった位置)を保ちながら骨頭の長軸方向に牽引を加えることで、組織の滑走性を引き出すことが期待できます。

この状態に対しては、手技療法が最も直接的に働きかけられる病態の一つです。

【出典】The immediate effects of 5-minute high-force long axis distraction mobilization on the strain on the inferior ilio-femoral ligament and hip range of motion: A cadaveric study

この部位にも痛みが出ることがある病態:変形性股関節症、大腿骨寛骨臼インピンジメント、股関節滑膜炎、弾発股

股関節の痛みは「痛む場所」と「動きの偏り」が引き起こす連鎖から始まる

股関節の痛みは、痛みを感じる部位と実際に問題が起きている部位が必ずしも一致しません。

前側が痛いと思っていたら後ろの筋肉の硬さが骨頭を前に押し出していたり、外側が痛いと思っていたら骨盤の傾きが根本にあったり、鼠径部の慢性的な痛みが実は腰椎の前弯の消失に端を発していたりすることは珍しくありません。

体重を支える関節である以上、股関節への力の流れは骨盤・腰椎・膝とつながっており、一つの部分の動きが変われば必ず他の部分が代わりに動こうとします。

骨盤が後ろに傾けば大腿骨頭の前方への露出が増えて関節が不安定になり、不安定になった関節を支えようとして周囲の筋肉が過剰に収縮し続け、その疲弊した筋肉が新たな痛みを生みます。

歩き方の癖が長年続くと、筋肉は正しく使われる状態を忘れて誤った代償パターンを繰り返すようになります。

痛みを取り除くだけでなく、股関節の骨頭がくぼみの中心に引き込まれた安定した状態を取り戻し、骨盤・腰椎の傾きを適切に保てる筋肉の機能を育て直すことが、同じ場所を繰り返し痛めないための土台になります。

日常の動作の中で何度も同じ力のかかり方を繰り返さないためには、痛みが消えた後も動き方そのものを見直し続けることが大切です。