腰痛はとても身近な症状ですが、その原因は一つではありません。腰が痛いと聞くと、骨や神経に異常があるのではと不安になる方も多いと思います。
しかし実際には、レントゲンやMRIで大きな異常が見つからない腰痛も非常に多く、日常生活の中で少しずつ積み重なった負担が原因になっていることが少なくありません。
腰の中には、背骨と背骨の間でクッションの役割をしている部分があります。このクッションに負担がかかりすぎると、腰の痛みや足のしびれにつながることがあります。
いわゆる椎間板ヘルニアと呼ばれる状態も、このクッションが関係していますが、すべての腰痛がヘルニアというわけではありません。

また、年齢を重ねることで、背骨やその周りは少しずつ変化していきます。
骨や関節がすり減ったり、硬くなったりすることで、動かしづらさや痛みを感じることもあります。
これは特別な病気というより、長年体を使ってきた結果として起こる自然な変化とも言えます。
背骨の形や生まれつきの体の特徴が影響している場合もあります。
背骨が少しずれていたり、骨盤とのつなぎ目の形が違ったりすると、腰に負担が集中しやすくなります。
ただし、こうした形の違いがあっても、必ず痛みが出るわけではありません。体の使い方や動き方によって、痛みが出たり出なかったりします。
腰痛の中には、転んだり、重い物を持ったりしたことがきっかけで急に起こるものもあります。
いわゆるギックリ腰はその代表で、突然強い痛みが出るため驚かれますが、その原因は筋肉や関節、靱帯などさまざまです。
ギックリ腰を起こしたからといって、必ず重い病気につながるわけではありません。

さらに、ストレスや疲れ、気分の落ち込みなど、心の状態が腰の痛みとして表れることもあります。
また、ごくまれですが、内臓の病気や全身の病気が腰の痛みとして感じられる場合もあるため、痛みが長く続く場合は注意が必要です。
腰痛は「ここが悪いから痛い」と単純に決めつけられるものではありません。
体の状態、生活習慣、動き方が重なり合って起こるものです。
大切なのは、必要以上に不安になりすぎず、自分の体の状態を正しく知ることです。
部位別にみる腰痛の種類
腰上部(腰の背骨正中ライン上寄り・みぞおちの裏あたり)
背骨の中でも、胸の背骨と腰の背骨が切り替わるあたりは、動きの少ない胸椎と動きの大きい腰椎がつながる場所です。
この移行部には力の集中が起きやすく、炎症・感染・骨折など、組織そのものに変化が生じる病態が現れやすい部位です。
背骨の中心ライン沿いに深いところからくる重だるい痛みや、動くたびにズキッとする鋭い痛みとして感じることが多くあります。
- 脊椎炎(せきついえん:背骨に炎症が起こる状態)細菌などが背骨に感染することで、背骨の中心ラインに深いところからくる重だるい痛みが続くことがあります。

発熱を伴ったり、安静にしていても痛みが和らがないことが特徴のひとつです。
免疫力が低下しているかたや、糖尿病をお持ちのかたは感染が起こりやすい傾向があります。

この状態は手技や運動療法での対応が難しく、抗菌薬など医療機関での治療が必要になります。
発熱や強い痛みが続く場合は、速やかに医療機関を受診されることをお勧めします。
【出典】Pyogenic vertebral osteomyelitis: a systematic review of clinical characteristics
- 脊椎カリエス(せきついかりえす:結核が原因の背骨の炎症)結核菌が背骨に感染して炎症を引き起こす状態で、現代では頻度は多くありませんが、免疫力が低下しているかたや、かつて結核に罹患したことがあるかたでは注意が必要です。

腰椎(ようつい・腰の骨)の上寄りに生じると、背骨の中心ライン沿いに深いところからくる重だるい痛みが続くことがあります。
発熱や体重減少など全身症状を伴うことがあります。

この状態は抗結核薬による治療が必須で、手技での対応はできません。
上記のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診されることをお勧めします。
【出典】Spinal tuberculosis: A review
- 化膿性骨髄炎(かのうせいこつずいえん:骨の中にばい菌が入る状態)背骨の中に細菌が侵入して膿(うみ)がたまる状態で、背骨の中心ライン沿いに強い痛みと熱感が生じます。

高熱を伴うことが多くあります。
この状態は抗菌薬や外科的処置など医療機関での治療が主体となります。

発熱や強い痛みが続く場合は、速やかに医療機関を受診されることをお勧めします。
【出典】Pyogenic vertebral osteomyelitis: a systematic review of clinical characteristics
- 圧迫骨折(あっぱくこっせつ:骨がつぶれるように折れる状態)特に大きなケガをした記憶がないのに、ある日から背骨の上寄りがズキッと痛み始めた、というかたちで気づくことがあります。
くしゃみや重いものを持ち上げた瞬間など、ちょっとした動作がきっかけになることも少なくありません。

骨粗鬆症(こつそしょうしょう・骨がもろくなる状態)が進んでいると、背骨が自分の体重を支えきれずに少しずつつぶれるように変形することがあります。
痛みは背骨の中心の上寄りに感じることが多く、前にかがんだり、寝返りを打ったりするときに強くなりやすい特徴があります。

骨折そのものは手技での対応が難しく、固定や骨粗鬆症の治療など医療機関での管理が必要になります。早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
【出典】Clinical practice. Vertebral fractures
この部位にも痛みが出ることがある病態:変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、腫瘍性腰痛
腰下部(腰の背骨正中ライン下寄り・ベルトの位置あたり)
腰の骨の一番下と骨盤がつながるあたりは、上半身の重みをすべて受け止めながら、骨盤へと力を伝える要の場所です。椎間板への負担が集中しやすく、クッションの傷みや骨の変化が起きやすい部位です。
腰の深いところからくる重だるさや、前かがみの動作で強くなる鈍い痛みとして現れることが多くあります。
- 椎間板性腰痛(ついかんばんせいようつう:椎間板自体に傷がつき痛みが出る腰痛)レントゲンやMRIでは見えにくいことも多く、「検査では異常なし」と言われながらも腰の奥が重くてつらい、という経験をされているかたに多い痛みです。

前かがみで作業をしたあと腰の奥のほうが重くなってくる、長時間座っていると深いところからくる重だるい感覚が抜けない、というかたちで気づくことが多くあります。
椎間板の外側を包む繊維に亀裂が入ることで、背骨の下寄りの中心ライン沿いに鈍く重だるい痛みが生じます。
神経への圧迫はなくても、傷ついた繊維そのものが痛みの信号を出します。

繰り返しの前傾み姿勢や、重いものを持ち上げる動作が積み重なることで傷が生じやすく、中腰での作業が多い人や長距離の運転を日常的に行う人に多くみられます。
加齢とともに椎間板の水分が減って弾力が落ちると、さらに傷みやすくなります。
- シュモール結節(けっせつ:クッションが骨の中に食い込む変化)椎間板の中の柔らかい組織が、上下の骨に向かって押し込まれるようにめり込んでいく状態で、腰の下寄りの正中ライン付近に鈍く重だるい痛みとして感じることがあります。

日常的にはそれほど強い痛みにならないことも多いのですが、前傾み姿勢が続いたり重いものを繰り返し持ち上げたりすることで、慢性的な腰の重だるさとなって現れることがあります。

成長期に背骨に強い負担がかかった人や、椎間板がもともと弱い体質の人に起こりやすいとされています。
【出典】https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40717265/
- 隅角解離(ぐうかくかいり:背骨の縁の部分に小さな傷ができる状態)椎間板が変性してクッション機能が落ちると、背骨の下寄りの縁に繰り返しの負荷がかかり、骨の角が少しはがれるような変化が生じることがあります。

腰の下寄りの中心ライン近くに局所的な鈍い痛みとして感じることが多く、前かがみの動作で増強しやすい特徴があります。

- 変形性脊椎症(へんけいせいせきついしょう:背骨がすり減ったり形が変わる状態)気づかないうちに少しずつ進んでいく変化で、背骨の骨と骨の間のクッションが薄くなり、骨の縁にトゲのような出っ張りができてくる状態です。

これ自体は加齢の自然な経過のひとつですが、骨の変形が進むと、背骨を動かすたびに骨同士がこすれ合い、腰の下寄りの中心ラインから外側にかけて鈍く重だるい痛みとなって現れることがあります。
特に長時間同じ姿勢でいたあと、立ち上がろうとした最初の一歩で感じる腰のこわばりが、この状態の典型的なサインです。

何年もかけてゆっくりと変化が積み重なるため、「気づいたらずっと腰が重い」という訴えになりやすく、痛みがお尻や太ももへと広がることもあります。
- 骨粗鬆症(こつそしょうしょう:骨がもろくなる状態)骨の密度が低下することで、背骨が自分の体重を支えるだけの強さを保てなくなっていきます。

それ自体が直接的な腰痛になるというよりも、背骨が少しずつつぶれるように変形したり、ちょっとした動作で骨折が起きやすくなることで、腰の広い範囲に鋭い痛みや深いところからくる重だるい感覚が生じます。

骨粗鬆症そのものは骨密度を高める薬など医療機関での治療が主体となります。
閉経後の女性や、長期間ステロイド薬を使用しているかたは特に注意が必要で、早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
【出典】European guidance for the diagnosis and management of osteoporosis in postmenopausal women
- 腰仙移行椎(ようせんいこうつい:腰と骨盤の境目の形が通常と違う状態で、生まれつきのもの)腰椎の一番下の骨が骨盤の骨とくっつきかけていたり、逆に骨盤の骨が腰椎に似た形になっていたりすることがあります。

この形の違いにより、腰の下寄りの中心ライン近くに特定の方向への力が集中しやすくなり、慢性的な鈍い重だるさや深いところからくる重だるい感覚が生じることがあります。

長時間の立ち仕事や歩行の多い日のあとに、腰の下寄りの疲労感として感じることが多くあります。
【出典】Lumbosacral transitional vertebrae: association with low back pain
- 偽性すべり症・変性すべり症(ぎせいすべりしょう・へんせいすべりしょう:骨自体に切れ目はないのに、椎間板が弱くなることで背骨がずれてくる状態)脊椎すべり症(せきついすべりしょう・背骨が前後にずれている状態)と画像上よく似た変化として現れますが、原因が異なります。

腰の下寄りから骨盤のやや上あたりに鈍く重だるい痛みが出やすく、長時間の立位や歩行で症状が強くなることがあります。

閉経後の女性に多く、椎間板の変性が進みやすい時期と重なって症状が出やすくなります。
【出典】Diagnosis and conservative management of degenerative lumbar spondylolisthesis
この部位にも痛みが出ることがある病態:椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折、脊椎分離症、腫瘍性腰痛
左右サイド・外側脇腹(背骨の際から脇腹にかけて)
背骨の際から外側に広がるこのゾーンには、背骨の動きを調整する小さな関節、腰を深いところで支える多裂筋(たれつきん・背骨のすぐ脇を走る深層の筋肉)、さらに腰の外側から脇腹にかけて走る大きな筋肉が層になって並んでいます。
ここに痛みが出るときは、関節のロック・筋肉の疲弊・骨格の形の問題など、さまざまな原因が絡んでいることが多くあります。
腰を反らしたりひねったりするときの鋭い痛みから、夕方になると腰の外側が広く重だるくなる慢性的な疲労感まで、幅広い症状として現れます。
- 椎間関節性腰痛(ついかんかんせつせいようつう:背骨の後ろにある小さな関節が引っかかって動きが悪くなっている状態)レントゲンやMRIには写らない痛みで、「検査では異常なし」と言われても腰が固まってつらい、というかたに多くみられます。

腰をひねったり反らしたりするときにその関節がスムーズに動くことで、私たちは自由に体を動かすことができています。
しかしこの関節の動きが悪くなると、腰を後ろに反らしたときや、ベッドから起き上がるときの最初の動きで、背骨の際あたりに鋭い痛みが走ることがあります。
長時間座り続けたあとや、同じ姿勢で作業をした翌朝に「腰が固まった感じ」がするのも、この関節のこわばりが影響していることが多くあります。

腹筋や背筋のバランスが崩れて背骨を支える力が弱くなると、この小さな関節に過剰な負担がかかりやすくなります。
加齢とともに関節のすべりが悪くなることも重なって、中高年以降に多くみられる状態です。
【出典】Pathogenesis, diagnosis, and treatment of lumbar zygapophysial (facet) joint pain
- 脊椎分離症(せきついぶんりしょう:背骨の一部に切れ目がある状態)背骨のうしろ側の細い部分が繰り返しのストレスで疲労骨折を起こし、背骨の際の左右どちらかに鈍く重だるい痛みを感じることがあります。

前に体をかがめるときよりも、後ろに反らしたり、片側にひねったりしたときに痛みが強くなる傾向があります。

スポーツをしている若い世代に多く、成長期のジャンプや腰をひねる動作の繰り返しが積み重なって生じることが多いですが、中高年になってから腰の不調をきっかけに発見されることもあります。
【出典】The natural history of spondylolysis and spondylolisthesis: 45-year follow-up evaluation
- 脊椎すべり症(せきついすべりしょう:背骨が前後にずれている状態)分離症が進んで骨がずれてくるケースと、椎間板の劣化によって骨がずれてくるケース(偽性すべり症・変性すべり症)があります。

背骨の際から腰の外側にかけての鈍い痛みに加え、ずれた骨が神経に触れるとお尻から脚へのしびれや重だるさを伴うこともあります。

施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。
【出典】Spondylolysis and Isthmic Spondylolisthesis: A Guide to Diagnosis and Management
- 椎間板ヘルニア(ついかんばんへるにあ:クッションがはみ出して神経を刺激する状態)腰の骨と骨の間のクッションが後ろ側にはみ出し、背骨の際のやや外側から、お尻・太もも・すね・足先へと流れるように走る痛みやしびれが出るのが特徴です。

腰そのものの痛みより、脚への症状で気づくことも少なくありません。
前傾みで長時間座ったあとや、くしゃみの瞬間に腰から脚にかけて鋭い痛みが走ることもあります。
椎間板の中の柔らかい組織は、繰り返しの前かがみ動作によって少しずつ後方へ押し出されていきます。

中年以降は椎間板の水分が減って破れやすくなるため、40〜50代での発症が多い傾向があります。
施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。
- 急性腰痛(きゅうせいようつう:いわゆるギックリ腰)海外では「魔女の一撃」とも表現されるほど、突然で激しい痛みが特徴です。

重いものを持ち上げようとした瞬間、あるいは朝起き上がろうとしたときに、背骨の際から脇腹にかけて走るような鋭い痛みが生じ、そのまま動けなくなることもあります。
椎間関節の急激なロック、椎間板への急激な負荷、筋肉のけいれんなど、複数の要因が重なって起こることが多く、腰の筋肉や靭帯(じんたい・骨をつなぐ強い繊維)が疲弊していたり、柔軟性が低下していたりするところに瞬発的な力が加わることで起こりやすくなります。

ギックリ腰を起こしたからといって、必ず重い病気につながるわけではありません。
ただし、繰り返す場合は腰に慢性的な負担が積み重なっているサインであることが多くあります。
- 二分脊椎(にぶんせきつい:背骨の一部が完全に閉じていない状態で、生まれつきのもの)多くの場合、それ自体が強い痛みを出すわけではありませんが、背骨の際から外側にかけて負担が集まりやすい体の構造となるため、ほかの腰痛が起こりやすくなる下地になることがあります。

腰の横あたりに慢性的な重だるさを感じるかたで、レントゲンでこの変化が見つかることがあります。

【出典】Spina bifida occulta of S1 is not an innocent finding
- 筋・筋膜性腰痛(きんきんまくせいようつう:腰の筋肉が凝り固まり血流が悪くなって痛む状態で、使いすぎや同じ姿勢の続けすぎで起こる)レントゲンやMRIには写らない痛みで、「検査では異常なし」と言われながらも腰の外側がだるくてつらい、という経験をされているかたに多くみられます。

立ち仕事や座りっぱなしの仕事が続いたあと、夕方になると腰の外側が重だるくなるのは、この状態が関係していることが多くあります。
背骨の際から外側にかけての深層の筋肉が疲弊して血流が落ち、老廃物が溜まりやすくなると、筋肉を包む膜(筋膜・きんまく)とともに凝り固まり、鈍く重だるい痛みが腰の外側から脇腹にかけて広がって現れます。
お腹の奥にある腹横筋(ふくおうきん・体を包むコルセットのような役割をする深層の筋肉)が弱くなると、背中側の筋肉だけで上半身を支えようとするため、このゾーンの筋肉に過剰な負担がかかりやすくなります。

疲弊した筋肉は血流が落ちるほどにさらに硬くなり、硬くなるほどにまた血流が落ちるという悪循環に入り込んでしまうことが、慢性化の大きな理由のひとつです。
- 反り腰による腰痛(腰を反らしすぎる姿勢のクセが積み重なって起こる腰痛)反り腰になると、背骨の際にある椎間関節に過剰な圧縮力がかかり続けます。

立ちっぱなしの仕事や、ハイヒールを長時間履く習慣、お腹の筋肉が弱くなることで腰が前に押し出されるような姿勢が定着すると、背骨の際から腰の外側にかけて鈍く重だるい痛みが慢性的に続くようになります。

何年もかけて少しずつ体に積み重なったものが、ある時点から痛みとして表面に出てくることが多くあります。
【出典】Hyperlordosis is Associated With Facet Joint Pathology at the Lower Lumbar Spine
- 猫背による腰痛(前かがみの姿勢のクセが積み重なって起こる腰痛)猫背が習慣になると、腰の外側から脇腹にかけての筋肉が常に引っ張られた状態となり、深いところからくる重だるい感覚が慢性的に続くようになります。

デスクワークやスマートフォンの使用が長時間続く生活では、気づかないうちに前傾み姿勢が定着し、腰の外側の筋肉への負担が蓄積していきます。

反り腰と同様に、何年もかけて少しずつ積み重なった負担が、ある時点から痛みとして現れることが多くあります。
この部位にも痛みが出ることがある病態:椎間板性腰痛、変形性脊椎症、仙腸関節性腰痛、腫瘍性腰痛
臀部・仙腸関節周辺(お尻から骨盤のうしろ側にかけて)
腰とお尻の境目、骨盤のうしろ側には、仙腸関節(せんちょうかんせつ・骨盤のつなぎ目の関節)という関節があります。
腰が痛いと思っているのに、実際に押すと痛いのはお尻の上のほう、というケースでは、このあたりに問題が隠れていることがよくあります。
また神経の通り道が狭くなる変化もこのゾーンから脚への症状として現れることがあります。
- 仙腸関節性腰痛(せんちょうかんせつせいようつう:骨盤の関節(仙腸関節)が引っかかって動きが悪くなっている状態)レントゲンやMRIには写らない痛みで、「検査では異常なし」と言われながらもお尻の上のあたりがいつも痛い、というかたに多くみられます。

また、不思議な特徴があり腰が痛いはずなのに、触ってみるとお尻の上のほうや骨盤の端あたりに、決まって痛い場所が見つかることが多いのです。
仙腸関節とは、骨盤の後ろにある仙骨(せんこつ・骨盤の中央にある逆三角形の骨)と腸骨(ちょうこつ・骨盤の両脇の大きな骨)のつなぎ目です。

この関節は通常ほとんど動かないはずなのですが、その微細な動きが乱れると、立ち上がりの最初の一歩や、片足に体重をかけたときに、骨盤の片側に走るような鋭い痛みや鈍い重だるさが出ることがあります。
出産や加齢によってこの関節を支える靭帯(じんたい・骨をつなぐ強い繊維)の張力が変化すると、関節のわずかなずれが慢性的な痛みの源となることがあります。
- 強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん:体質的に背骨が固まりやすくなる病気)体の免疫が自分の背骨や骨盤の関節を攻撃し、少しずつ固めていきます。

お尻から仙腸関節あたりに始まり、徐々に腰から背中へと炎症が広がっていくことがあります。
特徴的なのは、朝起きてから1時間以上も腰が強くこわばり、動かしていると少し楽になる一方、じっとしていると痛みが増すという点です。
夜間に鈍く重だるい痛みで目が覚めることもあります。20代から30代の若い男性に多い傾向がありますが、中高年でも見られます。

この状態は免疫抑制薬や生物学的製剤など医療機関での治療が主体となります。
手技での対応には限界があるため、早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
- 脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう:神経の通り道が狭くなる状態)背骨の中を通る神経の通り道が狭くなることで、腰の痛みだけでなく、お尻から脚へのしびれや重だるさを伴うことがあります。

歩き始めると腰からお尻・太ももにかけて鈍く重だるい感覚が広がり、少し歩くと脚が重くなって休まずにいられなくなる、しかし少し前傾みになって休むと楽になってまた歩ける、という繰り返しが特徴的です。
この「歩いては休む」というパターンが出てきたら、脊柱管の狭窄が関係している可能性を考える必要があります。

年齢とともに背骨まわりの靭帯が厚くなったり椎間板が膨らんだりすることで神経の通り道が少しずつ狭くなり、前かがみになると道が広がって楽になり、後ろに反らすと狭まって症状が強くなるという特性があります。
施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。
【出典】Clinical practice. Lumbar spinal stenosis
- 産後の腰痛(出産後の骨盤まわりの変化や育児動作の負担が重なる腰痛)出産に備えて骨盤を広げるために分泌されるホルモンの影響で、骨盤を支える靭帯が柔らかくなります。

出産後しばらくはその柔らかさが残ったまま、抱っこや授乳・おむつ替えといった中腰・前傾みの作業が連続して続くため、仙腸関節まわりからお尻にかけて鈍く重だるい痛みが生じやすくなります。

授乳中は同じ姿勢が長く続くことで、腰から背中にかけての筋肉が疲弊しやすく、広い範囲での腰の重さとして感じられることもあります。
【出典】Predicting persistent pregnancy-related low back pain
この部位にも痛みが出ることがある病態:椎間板ヘルニア、脊椎すべり症、偽性すべり症、筋筋膜性腰痛、腫瘍性腰痛
どの部位にも現れうる腰痛
腰痛の中には、背骨の特定の場所や筋肉の問題とは切り離して考える必要があるものがあります。
以下の病態は腰のどの部位にも痛みが出る可能性があり、痛みの場所や性質よりも、背景にある原因そのものに目を向けることが大切です。
- 心因性腰痛(しんいんせいようつう:ストレスや気分の影響で腰に痛みが出る状態)仮面うつ病(かめんうつびょう・体の不調として現れるうつ状態)の一形態として、内科的にも整形外科的にも原因が見当たらないのに、腰の広い範囲に強い重だるい痛みが続くことがあります。

特定の姿勢や動作で痛みが変わるというより、常に体全体が重い感じが抜けない、痛みが生活全体にまとわりつくような感覚として表現されることが多くあります。
痛みを感じている場所がそのまま原因とは限らないのが、この腰痛のもっとも大きな特徴です。

腰そのものへのアプローチとともに、心の状態に向き合うための専門的なサポートが必要になることがあります。
早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
- 関連痛(かんれんつう)として、内臓の不調が腰の痛みとして感じられることがあります。
お腹や骨盤の中の臓器の病気が、腰に「映し出される」現象です。

胆石(たんせき)・胆のう炎:右の脇腹から背中・腰の外側にかけて波のように繰り返す鋭い痛みが出ることがあります。
腎結石(じんけっせき)・膀胱結石(ぼうこうけっせき):腰の外側から脇腹にかけて突然の強い痛みが走ることがあります。

婦人科の炎症や癒着(ゆちゃく・組織がくっついてしまう状態):下腹部から腰全体にかけての慢性的な鈍痛として現れることがあります。
膵炎(すいえん)・膵臓がん:検査で異常が見つからないのに続く強い腰の痛みの背景に隠れていることもあるとされています。
これらはいずれも内臓の病気が原因であるため、手技での対応はできません。
腰そのものには問題がないのに痛みが続く場合には、速やかに医療機関を受診されることをお勧めします。

- 全身の病気の一部として出る腰痛として、以下のような全身の病気の症状のひとつとして腰痛が出る場合があります。

糖尿病(とうにょうびょう)・痛風(つうふう)・慢性関節リウマチ(まんせいかんせつりうまち)・高血圧・低血圧・アルコールの影響など、腰のどの部分が痛むかは病気の種類や進み具合によって異なります。

鈍く重だるい痛みが広い範囲に広がることもあれば、特定の関節周囲に強い痛みとして現れることもあります。

これらはいずれも全身の病気が原因であるため、腰への手技だけでは根本的な改善につながりません。
腰痛の背景に全身の病気が疑われる場合は、早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
- 腫瘍性腰痛(しゅようせいようつう:がんなどが関係する腰痛)頻度は多くありませんが、がんの骨への転移や脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)による腰痛があります。

特に乳がん・子宮がん・前立腺がん・甲状腺がん・肺がんは骨に転移しやすいため注意が必要です。

腰の上部から下部にかけての広い範囲に、安静にしていても和らがない深いところからくる重だるい痛みとして現れることがあります。

夜間に痛みで目が覚める、体重の減少が伴うといった特徴がある場合は、手技での対応はできません。
このような症状があるときは、速やかに医療機関を受診されることをお勧めします。
腰の痛みが伝えようとしていること
腰が痛いとき、その痛みは「腰そのもの」だけの問題ではないことがほとんどです。
痛みを感じている場所と、実際に負担がかかっている場所がずれていることも多くあります。
腰の外側が痛いのに原因は骨盤の関節にある、お尻に近い部分が痛いのに原因は椎間板にある、ということも珍しくありません。
体全体は連動しています。足首の硬さが股関節の動きを制限し、股関節の動きの悪さが骨盤の傾きを生み、その骨盤の傾きが腰の骨への負担を集めている、
という連鎖は日常の中でよく起きています。どこか一箇所だけを見ていても、なかなか根本にたどり着けないのはそのためです。
また、同じ日常の動作の中で同じ負担を繰り返し続けることが、腰の痛みを維持させている大きな理由のひとつです。
台所仕事のあとに張る、車の運転のあとだけつらい、午後になるほど重くなる、そうした生活の中の偏りがそのまま腰への負担の偏りになっていることが少なくありません。
痛みが出にくい体の使い方を日常の中に取り入れていくことが、腰の痛みと長く付き合わないための一歩につながります。


