首の痛みが気になる方

首は、4〜5キログラムにもなる頭の重さを支えながら、上下左右にくるくると動かせる、体のなかでもとりわけ複雑なつくりをした場所です。

骨と骨の間にはクッションがあり、脳へとつながる神経の通り道があり、筋肉が何層にも重なって、この絶妙なバランスを保っています。

だからこそ、長年の姿勢の癖や、加齢による組織の変化、毎日の小さな動作の積み重ねが、ある日ふと「首が痛い」「腕がしびれる」「頭が重い」という形で出てくることがあります。

後ろを向けない、上を見ると痛む、肩から腕にかけてだるい、後頭部がズキズキするなど、同じ「首の痛み」でも、その場所や性質はひとそれぞれです。

どこが痛むかによって、原因もアプローチも変わってきます。

部位別にみる頚部痛の種類

首の後ろ側の痛み

変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう:加齢によって首の骨や骨の間のクッションが傷んでいく状態)は、気づかないうちに少しずつ積み重なって起きる痛みです。

後ろを振り向こうとしたとき、上を向こうとしたとき、あるいは長時間うつむいた後に顔を上げようとしたとき、首の後ろから肩の上にかけて深いところからくる重だるい感覚が走る。

そんな経験が増えてきた方も多いのではないでしょうか。

若いころはなかったのに、いつのまにかそれが当たり前になっていた、という方も少なくありません。

首の骨と骨の間には、椎間板(ついかんばん:骨どうしの間でクッションの役割をする組織)という柔らかいクッションがあります。

このクッションは20代ごろから少しずつ水分が抜け始め、年を重ねるにつれて薄くなっていきます。

薄くなると骨と骨の間が詰まり、後ろ側にある椎間関節(ついかんかんせつ:背骨どうしをつなぐ後ろ側の小さな関節)に強い圧迫がかかるようになります。

さらに骨の縁に出っ張り(骨棘:こつきょく)が生じると、神経の出口を狭め、首を後ろに反らすたびに関節どうしがこすれ合う状態になります。

デスクワークやスマートフォンの使用で長くうつむく姿勢が続くと、本来ゆるやかにカーブしているはずの首の骨が真っすぐになってしまい、後ろ側の関節にかかる負担が大きく増えます。

また、背中の骨が丸まって固まっている方は、顔を上に向けようとするとき首の下の方だけで過剰に動かすことになり、そこに力が集中していきます。

こうした負担が長年続くことで、変性は少しずつ進んでいきます。

【出典】Functional anatomy of the spine

椎間関節症(ついかんかんせつしょう:首の後ろ側の関節に生じる痛み)には、ちょっと不思議な特徴があります。

座っているときや安静にしているときはそれほど痛まないのに、後ろを向いたり上を向いたりした瞬間だけ、首の後ろの一点にズキッとした痛みが走るのです。

この痛みの正体は、椎間関節の内側にある滑膜ヒダ(かつまくひだ:関節の動きをなめらかにする薄い組織)への過剰な圧迫と摩擦です。

首を後ろへ反らす動きをすると、上の骨の突起が下の骨に対してずり下がるように動きます。

このとき、本来クッション役を担うはずの滑膜ヒダが挟み込まれ、強い圧縮の力が加わると鋭い痛みを発します。

特に首の中ほどや首の下の方の関節が傷みやすく、慢性的な首の痛みの多くはここが原因といわれています。

加齢によってヒダの組織が本来の柔らかさを失い、硬いたんぱく質で固められてどんどん硬くなっていくと、わずかな刺激でも痛みを感じやすくなります。

【出典】Immunohistochemical demonstration of nerve fibers in the synovial fold of the human cervical facet joint

頸部筋筋膜症(けいぶきんきんまくしょう:首や肩周りの筋肉と筋膜に生じる慢性的な痛み)は、いつの間にか慢性化していた、という痛みです。

朝起きたときから首と肩の境あたりが重だるく、長時間同じ姿勢を続けると深いところからくる重だるい感覚が強まり、押すと強く痛む硬いしこりが首の後ろや肩の上に触れる。

そんな状態が続いていませんか。

頭が前に出た姿勢では、後頭部から首の後ろにかけての筋肉が常に引き伸ばされながら頭を支え続けます。

この持続的な緊張が血のめぐりを妨げ、筋肉に疲労物質が蓄積すると、押すと強く痛む硬いしこりが生まれます。

さらに首の表層にある僧帽筋(そうぼうきん:首から背中にかけて広がる大きな筋肉)と、その下の肩甲挙筋(けんこうきょきん:肩甲骨と首の骨をつなぐ筋肉)が癒着して一塊になると、どちらかを単独で動かすことができなくなり、首の動きも制限されてきます。

夜間も筋肉の緊張が抜けにくく、朝から首が重いという訴えが多い理由のひとつです。

【出典】An expansion of Simons’ integrated hypothesis of trigger point formation

寝違え(ねちがえ:睡眠中や安静後に生じる急性の首の痛み)は、朝目が覚めたらいきなり首が回らなくなっていた、という形で現れることが多い痛みです。

振り向こうとするとズキッとした強い痛みが走り、痛みをかばってほとんど動かせなくなります。

発症前に首や背中のあたりに知らず知らずの緊張が蓄積されており、睡眠中に筋肉の緊張が緩んだ状態で頭の重みが首や首と背中の境目に集中してかかることで、関節が微細なずれを起こし、周囲の筋肉が防御的に強く収縮した状態になります。

首の後ろ側の筋肉のほとんどは、背中の骨や肋骨から首の骨へとつながっているため、背中の下の方や首と背中の境目がどこかで固まってずれていると、そのしわ寄せが首に集中します。

直接首をほぐそうとするよりも、痛みの出ていない背中の上の方の緊張をゆるめることで、首への力学的な負担が減り、速やかに動きが戻ることが多くあります。

【出典】Immediate Effects of Paraspinal Dry Needling in Patients with Acute Facet Joint Lock Induced Wry Neck

寝違えの詳細ページ

この部位にも痛みが出ることがある病態:頸椎症性神経根症、緊張型頭痛、肩甲挙筋症候群

首の前側・横側の痛み

頸椎椎間板ヘルニア(けいついついかんばんへるにあ:首の骨の間のクッションが飛び出して神経を圧迫する病態)は、ある日ふと横を向こうとしたとき、首の脇から腕にかけて電気が走ったような強い痛みが広がる、という形で気づくことが多い痛みです。

骨と骨の間のクッション(椎間板:ついかんばん)は、外側を丈夫な繊維、内側を水分の多い柔らかい組織で構成されています。

長年うつむく姿勢が続いたり、急な動作で首に大きな力が加わったりすると、外側の繊維に亀裂が入り、内側の柔らかい組織が後ろ横へ飛び出します。

飛び出した組織は神経の出口(椎間孔:ついかんこう)を狭め、そこを通る神経根(しんけいこん:脊髄から枝分かれして腕へ向かう神経)を圧迫します。

どの高さで起きたかによって症状が異なり、肩から上腕の外側に強い痛みが走る場合や、親指側の腕から手にかけてしびれる場合、小指側にしびれる場合など、飛び出した場所によってしびれや痛みが現れる位置が変わります。

首を後ろに反らして痛みのある側へ傾けると症状が強まり、逆に腕を頭の上に乗せると楽になる場合は、神経が一時的に圧迫から解放されているサインです。

施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。

【出典】Cervical Radiculopathy Focus on Characteristics and Differential Diagnosis

斜角筋症候群(しゃかくきんしょうこうぐん:首の前側面にある筋肉が神経や血管を圧迫して起こる病態)は、腕や手のしびれと首の前横側の痛みが組み合わさって現れるのが特徴です。

首の前側にある前斜角筋(ぜんしゃかくきん)と中斜角筋(ちゅうしゃかくきん)という二つの筋肉の間を、腕に向かう太い神経の束(腕神経叢:わんしんけいそう)が通っています。

長時間うつむく姿勢や、呼吸が浅くなって胸ばかりで呼吸する習慣があると、一番上の肋骨に付着するこれらの筋肉が過剰に働き続け、筋肉どうしの間が狭まって神経を圧迫します。

小指側から前腕の内側にかけてしびれる、腕が重だるい、手が冷えやすい、という症状を伴うことが多く、腕を上げて作業したり、首を反対側に傾けたりすると症状が悪化します。

深呼吸を利用してこれらの筋肉を選択的に動かし、筋肉どうしの動きを回復させることが改善への糸口になることが多くあります。

【出典】The Efficacy of Scalene Injection in Thoracic Outlet Syndrome

胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん:首と肩の間で神経や血管が圧迫される病態の総称)は、腕や手のしびれ、だるさ、冷えが慢性的に続くのに、首そのものはそれほど痛まない、という形で気づかれることが多い状態です。

首の骨から出た神経の束と血管は、首の前側の筋肉の間を抜け、鎖骨と一番上の肋骨の間の狭い隙間を通って腕へと向かいます。

この通り道のどこかが狭くなると、腕や手に向かう神経や血管が締め付けられ、しびれや血のめぐりの悪さが生じます。

なで肩の方や、長時間腕を下げた姿勢で作業する方に多く、腕を上げると楽になる一方、重いものを持ったり腕を下に引っ張られたりすると症状が強まる特徴があります。

背中が丸まって頭が前に出た姿勢が定着すると、鎖骨と肋骨の間がさらに狭くなり、神経や血管への圧迫が増します。

首の前側の筋肉の緊張をゆるめ、背中と胸まわりの動きを回復させることが、根本的な改善につながることが多くあります。

【出典】Neurogenic thoracic outlet syndrome and controversies in diagnosis and management

胸鎖乳突筋症候群(きょうさにゅうとつきんしょうこうぐん:首の前面を斜めに走る筋肉に生じる痛みと関連症状)は、首の前面から耳の後ろ、あるいは側頭部にかけて鈍く重だるい痛みが広がり、ときに目の奥や耳の周囲まで不快感が及ぶことがある状態です。

胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん:鎖骨と胸の骨から耳の後ろの骨まで走る大きな筋肉)は、頭が前方に出た姿勢では常に引き伸ばされながら頭を支えるために過剰に働き続けます。

この筋肉の深いところを脳から直接来る副神経(ふくしんけい)が通っており、胸鎖乳突筋が硬く緊張すると副神経が締め付けられて、その先にある僧帽筋(そうぼうきん:首から背中にかけて広がる大きな筋肉)への神経の伝わりが低下します。

すると肩甲骨が下がって外に開く姿勢がさらに悪化するという悪循環が生じます。

また、この筋の後ろ側の縁近くでは感覚神経が皮膚に向かって浮き上がっており、筋が固まるとこの神経も締め付けられ、耳の周囲の痛みや皮膚が過敏になるような感覚を引き起こすことがあります。

【出典】A Novel Therapeutic Approach Targeting Spinal Accessory and Dorsal Scapular Nerves for the Relief of Posterior Neck, Trapezius, and Interscapular Pain

この部位にも痛みが出ることがある病態:頸椎症性神経根症、変形性頸椎症

首の横側・肩への移行部の痛み

頸椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう:加齢に伴う変化で神経の出口が狭まり、腕への痛みやしびれが生じる病態)は、肩の上から腕にかけての強い痛みやしびれが、首よりも肩甲骨のあたりから始まることが多い病態です。

しびれが出る一か月以上前から、肩甲骨の内側や上あたりに鈍く重だるい痛みが続いていた、という方が多く、「はじめ肩の周りが痛いだけだと思っていたら、いつの間にか腕まで痛くなってきた」という経過をたどることがあります。

椎間板(ついかんばん:骨どうしの間でクッションの役割をする組織)の水分が失われて薄くなり、骨の縁に出っ張りが育ち、後ろ側を支える靭帯(じんたい:骨と骨をつなぐ丈夫な組織)が厚みを増すことで、神経の出口が四方から狭められていきます。

首を後ろへ反らして痛みのある側へ傾けると神経の出口がさらに狭くなり、症状が強まります。

椎間板の水分量は一日のなかでも変化し、夕方になるにつれてクッションがつぶれて神経の出口が狭くなるため、夕方以降にしびれがひどくなる、という特徴を持つ方もいます。

背中の骨が丸まって固まっていると首の下の方だけで過剰に動かすことになり、変性が加速します。

背中の動きを回復させることが根本的な負担軽減につながります。

施術を重ねても症状がなかなか変わらない場合は、手技以外の治療が必要と判断したときに適切な医療機関をご案内することもあります。

【出典】Corresponding scapular pain with the nerve root involved in cervical radiculopathy

肩甲挙筋症候群(けんこうきょきんしょうこうぐん:肩甲骨の上のあたりに付着する筋肉が過剰な緊張を起こした状態)は、首を反対側に傾けようとしたとき、肩甲骨の上の角あたりにズキッとした強い痛みが走る、という形で現れることが多い状態です。

肩甲挙筋(けんこうきょきん:首の横の骨から肩甲骨の上角まで走る筋肉)は、頭が前に出た姿勢では常に引き伸ばされながら肩甲骨を引き上げようとし続けるため、疲れやすい状態に置かれ続けます。

この筋肉の表層には僧帽筋(そうぼうきん:首から背中にかけて広がる大きな筋肉)が覆いかぶさるように位置していて、慢性的な緊張が続くと両者が癒着して一塊になります。

すると首を横に傾けようとしても肩甲骨側が固定されたまま動けず、逆に肩甲骨を動かそうとしても首の骨まで一緒に動いてしまうような状態になります。

さらに深いところでは肩甲背神経(けんこうはいしんけい:肩甲骨周りの筋肉を支配する神経)がこの筋肉のそばを通っており、ここで神経が締め付けられると、菱形筋(りょうけいきん:肩甲骨を背骨側に引き寄せる筋肉)への力が伝わりにくくなり、肩甲骨が外側に開いてさらに肩甲挙筋への負担が増すという悪循環が生まれます。

【出典】Dorsal scapular nerve neuropathy: a narrative review of the literature

頸肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん:首・肩・腕にかけて痛みやしびれが広がる状態)は、明確な原因を一つに絞りにくい複合的な痛みです。

首から肩、腕にかけての鈍く重だるい痛みとしびれが重なり合って慢性的に続き、特定の姿勢や動作で強まります。

デスクワークや細かい手作業を長時間続ける方、特に中年以降の女性に多く見られます。神経の出口での圧迫と、首の前側の筋肉の間や鎖骨の下での腕神経叢(わんしんけいそう:腕に向かう太い神経の束)への圧迫が重なると、本来であれば軽い刺激で済むはずの圧迫にも強い症状が出やすくなります。

背中の動きが失われ、頭が前方に出た姿勢が固定されると、首と肩まわりのあらゆる筋肉が常に余分な力を出し続けなければならなくなり、血のめぐりが悪くなって組織の硬直が進みます。

首だけでなく、骨盤・背中の骨・肋骨の動きを回復させ、首にかかる負担を体全体で分散させることが根本的な改善につながります。

【出典】Cervical zygapophysial (facet) joint pain: effectiveness of interventional management strategies

肩こり(頸部由来のもの)(かたこり:首の骨や筋肉の問題が原因で生じる肩周りの張りや痛み)は、多くの方が一度は経験したことのある、首から肩にかけての重だるさや張り感です。

ただ、「肩がこる」という同じ訴えのなかにも、首の骨の変化が原因のもの、筋肉の血のめぐりが悪くなって起きるもの、神経の締め付けが影響しているものなど、さまざまな原因が混在しています。

頭が前に出た姿勢が続くと、首の後ろ側と肩の上の筋肉が常に引き伸ばされながら頭を支え続け、血のめぐりが悪くなって疲労物質が蓄積します。

また、首の骨のカーブが失われると背中の骨の動きも制限され、肩甲骨を動かす筋肉まで緊張が広がっていきます。

単純に肩をもむだけでは一時的な楽さは得られても、首の骨のバランスや背中の動きを整えなければ、繰り返す肩こりの根本的な改善にはつながりにくいことが多くあります。

【出典】Analysis of abnormal muscle activities in patients with loss of cervical lordosis: a cross-sectional study

肩コリ症の詳細ページ

この部位にも痛みが出ることがある病態:斜角筋症候群、頸椎椎間板ヘルニア、変形性頸椎症

頭の後ろ・後頭部の痛み

緊張型頭痛(きんちょうがたずつう:筋肉の過緊張や神経の締め付けが原因で起こる慢性的な頭痛)は、頭全体が締め付けられるような感覚とともに、後頭部から側頭部にかけて鈍く重だるい痛みが続く状態です。

うつむき姿勢が長くなると、後頭部と首の境目の深いところにある小さな筋肉群が短縮し、頭の付け根が圧迫されます。

このあたりを大後頭神経(だいこうとうしんけい:後頭部から頭頂部の感覚を担う神経)が走っており、後頭部を覆う深い筋肉を貫いて皮膚に出てきます。

深い筋肉どうしの間が癒着すると、大後頭神経がこの部分で締め付けられ、後頭部から頭頂部にかけてズキズキするような強い痛みや、皮膚が過敏になるような感覚が広がります。

また、このあたりには深いところを流れる血管も並走しており、筋肉の癒着が血のめぐりも妨げるため、「頭がぼーっとする」「目が重い」という感覚を伴うことがあります。

頭が前に出た姿勢では首の上の方の関節が常に過剰に伸びた状態になり、深い筋肉が慢性的に短縮し続けるため、姿勢そのものを見直すことが根本的な改善につながります。

【出典】Anatomy, Head and Neck, Occipital Nerves

緊張型頭痛の詳細

後頭神経痛(こうとうしんけいつう:後頭部の神経が刺激されて起こる鋭い痛み)は、後頭部から耳の後ろにかけて、電気が走るような鋭い痛みが突然繰り返される状態です。

痛みの発作は数秒から数十秒で収まることが多く、合間は鈍く重だるい感覚が続きます。首の動きや後頭部への触れ方で誘発されることがあります。

大後頭神経(だいこうとうしんけい:後頭部から頭頂部の感覚を担う神経)または小後頭神経(しょうこうとうしんけい:耳の後ろ側の感覚を担う神経)が、後頭部の筋肉や筋膜の間で締め付けられることで起きます。

特に首の上から二番目の骨のすぐ下を通る深い筋肉のそばで神経が迂回しているため、この筋肉が硬く短縮すると神経への摩擦が高まります。

長年うつむき姿勢を続けた後や、精神的な緊張が高まった時期に悪化することが多く、首の上の方の深い筋肉の動きを回復させることで神経への締め付けが緩み、症状が落ち着いてくることが多くあります。

【出典】Occipital Neuralgia

環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう:首の一番上にある第一・第二の骨の関節がわずかにずれた状態)は、首を回そうとすると上のほうでひっかかるような感覚とともに動きが制限され、首の上の部分に深いところからくる重だるい痛みを感じる状態です。

慢性的な姿勢の乱れによっても首の最上部の安定性が損なわれることがあります。

首の一番上の骨は椎体(ついたい:背骨の本体部分)を持たない特殊なつくりで、頭の骨の底面と関節を形成しています。

頭が前に出た姿勢が続くと、この関節が常に過剰に伸びた状態に置かれ、周囲の靭帯(じんたい:骨と骨をつなぐ丈夫な組織)に慢性的な牽引力がかかります。靭帯の弾力性が失われると、関節の微細なずれを修正する力が低下し、首の最上部の不安定性が強まります。

深いところの短い筋肉を適切に働かせて頭を正しい位置に乗せる練習が、安定性の回復に重要な役割を果たします。

施術を続けながら経過を確認し、手技だけでは回復が難しいと判断した場合は、手術など適切な医療機関での治療をご案内することもあります。

【出典】Atlantoaxial Instability

この部位にも痛みが出ることがある病態:変形性頸椎症、頸椎症性神経根症、頸部筋筋膜症

首全体・腕や手への広がりを伴う複合的な痛み

むち打ち症(むちうちしょう:交通事故や転倒などで頭が急激に揺さぶられた後に生じる首の痛み)は、交通事故や転倒など、頭が急激に前後または横に揺さぶられた後から始まる痛みです。

受傷直後よりも数時間から数日後に首の痛みや重だるさ、頭痛、めまい、腕のしびれが現れることが多く、「あのときは大したことないと思っていたのに」と感じる方も多くいます。

急激な揺れのなかで、首の前後を支える筋肉が引き伸ばされながら損傷を受け、椎間関節(ついかんかんせつ:背骨どうしをつなぐ後ろ側の小さな関節)や椎間板(ついかんばん:骨どうしの間でクッションの役割をする組織)にも微細な損傷が生じます。

組織に傷がある場合は自然に修復されるプロセスがあるため、その流れを妨げない方向での対応が重要です。

寝違えとの大きな違いはここで、組織の傷がある分、症状が長引く傾向があります。

首のバランスが崩れたまま回復すると、年月を経て変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう:加齢によって首の骨や骨の間のクッションが傷んでいく状態)や神経根の症状へと発展することがあるため、症状が落ち着いた後の姿勢と動き方の見直しが再発予防の大切な柱となります。

【出典】Structural changes in the cervical facet capsular ligament: potential contributions to pain following subfailure loading

むち打ちの詳細ページ

頸椎後縦靭帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう:背骨の後ろ側を走る靭帯が骨のように硬くなり、脊髄を圧迫する病態)は、首から腕・手にかけての鈍いしびれや、足がもたつくような感覚、あるいは細かい作業がしにくくなってきた、という形で気づかれることがある病態です。

背骨の前側を裏打ちしている靭帯(じんたい:骨と骨をつなぐ丈夫な組織)が骨のように硬くなり厚みを増して、脊髄(せきずい:脳から続く中枢神経)を前から圧迫します。

中高年に多く、首を後ろに反らす動作、たとえば洗濯物を干すときや上の棚のものを取るときに症状が強まる場合は注意が必要です。

靭帯の骨化そのものを手技で変化させることはできませんが、骨化に至る二次的な要因、つまり姿勢の乱れや背中の硬直、筋力の低下を改善することで、脊髄への圧迫を最小限に抑え、日常の動きやすさが高まることが期待できます。

施術を重ねても症状がなかなか変わらない場合は、手技以外の治療が必要と判断したときに適切な医療機関をご案内することもあります。

【出典】Ossification of the posterior longitudinal ligament in the cervical spine: a review

頸椎不安定症(けいついふあんていしょう:首の関節がゆるんで、動作のたびに不安定な動きが生じる状態)は、気づいたら特定の動作のたびに首がガクッとするような感覚や、強い筋肉の緊張が繰り返されていた、という経過をたどることがあります。

筋肉の疲弊や靭帯(じんたい:骨と骨をつなぐ丈夫な組織)の弛緩によって首の関節を動的に安定させる力が低下すると、体はこれを補おうとして周囲の筋肉を過剰に収縮させ続けます。

この過剰な収縮が血のめぐりを妨げ、筋肉どうしの癒着を招き、やがて神経の締め付けも引き起こします。

骨盤や背中の骨の土台が不安定だと首への力学的な負担がさらに増すため、体の下の方からバランスを整え直すことが、首の安定性を回復するための近道になります。

【出典】Chronic neck pain: making the connection between capsular ligament laxity and cervical instability

ストレートネック(すとれーとねっく:本来ゆるやかなカーブを描いているはずの首の骨が真っすぐになってしまった状態)は、それ自体が病気というよりも、さまざまな首の痛みや不調を引き起こす「体の状態」として知っておいていただきたい概念です。

正常な首の骨は、横から見るとなだらかな前カーブ(前弯:ぜんわん)を描いています。このカーブがあることで、頭の重さを首全体にうまく分散させることができます。

しかし長年うつむく姿勢が続くと、このカーブが失われて真っすぐになり、頭の重さが首の骨に直接かかるようになります。

すると後ろ側の関節への圧迫が増し、神経の出口が狭まりやすくなり、首の後ろから肩にかけての筋肉が常に余分な力を出し続けなければならない状態になります。

ストレートネックそのものは手技で一度に元に戻せるものではありませんが、背中の動きを回復させ、深いところの筋肉が正しく働けるようにしていくことで、カーブが少しずつ戻り、首への負担が軽くなることが期待できます。

【出典】Decreased neck muscle strength in patients with the loss of cervical lordos

ストレートネックの詳細ページ

この部位にも痛みが出ることがある病態:頸椎症性神経根症、むち打ち症、胸郭出口症候群

首の痛みと体のつながりを丁寧に診ることが、長引く症状への近道

首の痛みを考えるとき、見落とされがちなことがあります。

それは、痛みが出ている場所と、本当の原因がある場所は、必ずしも同じではないということです。

首の後ろが痛む原因が、実は背中の骨が丸まって固まっていることにある、という構図はとても多くあります。

首の骨は、骨盤から積み上がった背骨の最上段に乗っているため、土台の傾きはそのまま首の負担に積み重なります。

また、首まわりの筋肉は何層にも重なっており、それぞれが独立して滑らかに動くことで、首の細かい動きが生まれています。

慢性的な緊張が続くと層と層の間が癒着し始め、その隙間を走る神経が締め付けられ、腕や手のしびれや頭痛という形で症状が現れることがあります。

大切なのは、同じ負担を毎日繰り返さないようにしていくことです。うつむく姿勢の時間を少しずつ見直すこと、背中と胸まわりの動きを取り戻すこと、深いところの細かい筋肉が本来の安定する力を発揮できるように少しずつ練習していくこと。

こうした積み重ねが、首へのストレスを根本から軽くし、長引く痛みの再発を防ぐことにつながっていきます。